👨⚕️ この記事の執筆者 臨床工学技士(国家資格・平成15年登録/登録番号16,000番台)|透析・血液浄化 専従20年以上・1万症例以上|北海道内の病院で透析室・急性期血液浄化を担当
公開日:2026年7月11日/最終更新日:2026年7月11日
📌 この記事の信頼性について 本記事は、PubMed収載の査読済み論文、日本透析医学会(JSDT)・日本移植学会などの公式統計、および筆者自身の透析専従20年の臨床経験にもとづいて構成しています。数値には出典を明記し、エビデンスの強さ(メタ解析/観察研究など)も区別して記載しています。ただし本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の治療方針は必ず主治医・担当医療スタッフとご相談ください。
✅ この記事でわかること
- 腎臓が働かなくなったときに選べる「4つの道」の全体像
- 血液透析・腹膜透析・腎移植・保存的腎臓療法の具体的な違い(通院・生活・体への負担)
- それぞれの選択肢の生命予後と生活の質(QOL)に関する最新の研究データ
- 「どれが自分に合うか」を考えるときの判断のものさし
- 一度決めてもあとから変更できるという大切な考え方
はじめに——「透析=血液透析だけ」ではありません
腎臓の働きが大きく低下し、いよいよ腎代替療法(じんだいたいりょうほう)が必要になったとき、多くの方が「透析になる」と一言で受け止めます。しかし実際には、腎臓が働かなくなったときに選べる道は一つではありません。
大きく分けて、血液透析(HD)、腹膜透析(PD)、腎移植、そして透析や移植を行わずに症状を和らげながら過ごす保存的腎臓療法(CKM)という4つの選択肢があります。
日本の現状を数字で見てみましょう。日本透析医学会の統計調査(JRDR)によると、2024年末時点でわが国の慢性透析患者数は337,414人で、平均年齢は70.27歳でした(出典:日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況(2024年12月31日現在)」)。このうち施設調査による治療形態の割合を見ると、血液透析(HD)と血液透析濾過(HDF)を合わせた「血液を体の外に出して浄化する方法」が圧倒的多数を占め、腹膜透析(PD)の患者数は10,774人でした。一方、腎移植は2023年の実施数が全国で2,001例(出典:日本移植学会 2024臓器移植ファクトブック)と、透析患者数と比べるとごく限られています。
この数字が示すのは、「日本では血液透析が最も広く行われている」という事実であると同時に、「他の選択肢はまだ十分に知られていない・選ばれていない」という現実でもあります。実際、腎不全の治療選択は、医学的な条件だけでなく、その人の生活・価値観・家族の状況によって最適解が変わるものです。
この記事では、透析の現場に20年以上立ってきた臨床工学技士の視点から、4つの選択肢をできるだけ公平に、そして患者さんが自分で選びやすい形で比較していきます。
📄 この記事の主な参照論文
- Chaudhry D, et al. Survival for waitlisted kidney failure patients receiving transplantation versus remaining on waiting list: systematic review and meta-analysis. BMJ. 2022;376:e068769.(PMID: 35232772)
- Verberne WR, et al. Value-based evaluation of dialysis versus conservative care in older patients with advanced chronic kidney disease: a cohort study. BMC Nephrol. 2018;19(1):205.(PMID: 30115028)
- Morton RL, et al. Conservative Management and End-of-Life Care in an Australian Cohort with ESRD. Clin J Am Soc Nephrol. 2016;11(12):2195-2203.(PMID: 27697783)
- Rosansky SJ, et al. Treatment decisions for older adults with advanced chronic kidney disease. BMC Nephrol. 2017;18(1):200.(PMID: 28629462)
文献の詳細・DOIリンクは記事末尾の「参考文献」に記載しています。
1. そもそも腎代替療法とは
腎臓は、血液をろ過して老廃物や余分な水分を尿として排出し、体内の環境を一定に保つ臓器です。腎臓の働き(eGFR)が慢性的に低下し、最終的に自分の腎臓だけでは体の環境を維持できなくなった状態を末期腎不全と呼びます。
この段階になると、失われた腎臓の機能を何らかの方法で補う必要があります。それが腎代替療法です。方法は大きく2つの発想に分かれます。
ひとつは、機械や自分の体の膜を使って血液を浄化し続ける方法(血液透析・腹膜透析)。もうひとつは、他者から腎臓そのものを移植する方法(腎移植)です。そして近年、これらに加えて、あえて透析や移植を行わず、症状を和らげることに重点を置く「保存的腎臓療法」という第4の選択肢が、特に高齢の方や持病の多い方に対して国際的に注目されています。
重要なのは、これら4つが「良い・悪い」の順番で並んでいるわけではないということです。それぞれに向き・不向きがあり、患者さんの年齢・体の状態・生活・希望によって、最も適した選択が変わります。

2. 選択肢① 血液透析(HD)
どんな治療か
血液透析は、腕の血管(シャント)から血液を体の外に取り出し、ダイアライザーと呼ばれる人工腎臓(透析膜)を通して老廃物と余分な水分を取り除き、きれいになった血液を体に戻す治療です。日本で最も広く行われている方法で、標準的には週3回・1回あたり4時間程度、透析施設に通院して行います。
メリット
- 医療スタッフが管理するため、患者さん自身の手技負担が少ない
- 定期的に通院するため、体調の変化を医療者が把握しやすい
- 日本全国に施設が多く、通院先を確保しやすい
- 実施施設・症例数が非常に多く、運用が成熟している
デメリット・負担
- 週3回の通院が生活の中心になり、時間的な拘束が大きい
- シャントを作る手術と、その後の管理が必要
- 透析と透析の間(中1〜2日)に水分・老廃物がたまるため、食事や水分の制限が比較的厳しい
- 透析中・透析後に血圧低下やだるさを感じることがある

臨床工学技士の視点
血液透析は「最も確立され、最も選ばれている」方法です。裏を返せば、それだけ多くの患者さんの生活を長年支えてきた実績があります。一方で、週3回・1回4時間という時間の使い方は、就労や家庭生活との両立という点で工夫が必要になる場面が多い、というのが現場での実感です。近年は施設によって時間帯の選択肢(夜間透析など)が広がってきており、生活スタイルに合わせた通い方を相談する価値は十分にあります。

現場からの実体験
私が担当してきた範囲では、血液透析を続けながら仕事や趣味を長く続けておられる方は決して珍しくありません。ただし、食事・水分管理をどれだけ自分の生活に落とし込めるかで、体調の安定度に差が出る傾向は感じています。「制限」を我慢として捉えるより、体調を保つための道具として使いこなせるようになった方が、長く安定される印象があります(あくまで観察した範囲での傾向です)。
3. 選択肢② 腹膜透析(PD)
どんな治療か
腹膜透析は、自分のお腹の中にある腹膜という薄い膜を透析膜として利用する方法です。お腹にカテーテル(管)を留置し、そこから透析液を注入・排出することで、腹膜を通して老廃物と水分を取り除きます。
大きな特徴は、自宅や職場で自分(または家族)が行えるという点です。日中に数回、透析液を交換する方法(CAPD)や、夜間に機械を使って就寝中に自動で行う方法(APD)があります。
メリット
- 通院が月1〜2回程度で済むことが多く、時間の自由度が高い
- 自宅で行えるため、就労・家庭生活と両立しやすい
- 血液透析に比べて、循環(血圧など)への急激な負担が比較的穏やか
- 残っている自分の腎機能(残腎機能)を保ちやすいとされる
デメリット・負担
- 毎日の透析液交換など、自己管理の手間がかかる
- お腹のカテーテル出口部の清潔管理が必要(腹膜炎の予防)
- 腹膜を使い続けられる期間には限りがあり、多くの場合いずれ血液透析などへの移行を検討する
- 透析液を保管するスペースが自宅に必要

臨床工学技士の視点
腹膜透析は「生活の中に治療を組み込む」タイプの方法です。日本では患者全体に占める割合が数%にとどまっていますが、これは医学的に劣っているからというより、実施施設や指導体制の事情など複数の要因が絡んでいます。生命予後については、血液透析と腹膜透析を比べた研究で「長期の生存率は同程度」とする報告が複数あり、どちらが一律に優れているとは言い切れないのが現状です。
例えば、韓国の単施設・傾向スコアマッチング研究では、血液透析群と即時開始型腹膜透析群の5年生存率に統計的な有意差はなかったと報告されています(出典:PubMed収載論文 Lee JY, et al. Nephrology (Carlton). 2025)。一方で、心血管系の合併症については、腹膜透析と血液透析で発生パターンが異なるという指摘もあり(出典:Ng CH, et al. Int Urol Nephrol. 2020, PMID: 33113084)、単純に「どちらが安全」と結論づけられるものではありません。これらは主に観察研究であり、患者背景の違いが結果に影響している可能性がある点には注意が必要です。

現場からの実体験
腹膜透析を選ばれた方は、「自分のペースで生活を組み立てられる」ことに価値を感じておられるケースが多い印象です。ただし、自己管理が治療の質に直結するため、ご本人やご家族が手技と衛生管理にどれだけ取り組めるかが、続けやすさを左右する傾向があると感じています。
なお筆者個人としては、もし自分が腎代替療法を必要とする立場になった場合、まず腹膜透析(PD)から導入し、残腎機能や腹膜の状態を見ながら段階的に血液透析を組み合わせる「PDファースト・ハイブリッド療法」への移行を選びたいと考えています。これは、透析導入初期の身体的な負担を抑えつつ、残腎機能をできるだけ長く活かしたいという個人的な優先順位にもとづくものであり、あくまで一つの考え方です。実際にどの方法が適しているかは、腹膜の状態や併存疾患、生活環境によって一人ひとり異なりますので、この考え方をそのまま当てはめられるものではない点はご理解ください。

4. 選択肢③ 腎移植
どんな治療か
腎移植は、他者から提供された健康な腎臓を体内に移植し、失われた腎機能を根本的に回復させる方法です。提供者の違いにより、健康な家族などから腎臓を1つ提供してもらう生体腎移植と、亡くなった方から提供される献腎移植に分かれます。日本では生体腎移植が全体の約85%を占めています(出典:日本腎臓学会 一般向け解説)。
透析を始める前に移植を行う「先行的腎移植」という方法もあり、透析後の移植と比べて生着率・生存率で優れているとされています(出典:全国腎臓病協議会)。
メリット
- 4つの選択肢の中で、生命予後・生活の質の両面で最も良好とされる
- 成功すれば透析から離脱でき、食事・水分制限が大きく緩和される
- 通院頻度が減り、社会復帰・妊娠出産の可能性も広がる
デメリット・負担
- 手術が必要で、体への負担がある
- 移植後は拒絶反応を抑えるため、生涯にわたる免疫抑制薬の服用が必要
- 免疫抑制により感染症や一部の悪性腫瘍のリスクがやや高まる
- 献腎移植はドナー不足により待機期間が非常に長い(日本では平均約15年)
エビデンス:移植の生存ベネフィット
移植の生命予後上の優位性は、質の高い研究で示されています。48の比較研究・約125万人を統合したBMJ誌のシステマティックレビュー・メタ解析によると、移植待機リストに登録された腎不全患者において、移植を受けた群は透析を続けた群に比べて全死亡のハザード比が0.45(95%信頼区間 0.39〜0.54)であり、長期的な生存ベネフィットが確認されました(出典:Chaudhry D, et al. BMJ. 2022, PMID: 35232772)。ただしこの研究は、一部のサブグループでは移植の明確なベネフィットが認められなかったことも同時に報告しており、すべての人に一律に当てはまるわけではない点が重要です。
日本の移植成績も年々改善しています。生体腎移植の5年生存率は近年の集計(2010〜2022年)で96.5%、献腎移植でも92.6%と良好な水準に達しています(出典:日本移植学会 2024臓器移植ファクトブック)。

臨床工学技士の視点
数字の上では、腎移植は「最も良い選択肢」に見えます。実際、透析から離脱できることの意義は大きく、生活の自由度は透析と比べものになりません。ただし現場の実感として強調したいのは、移植には超えるべきハードルが複数あるということです。適応の可否、ドナーの有無、手術に耐えられる体の状態、そして献腎の場合の長い待機期間。特に日本では献腎ドナーが極めて少なく、待機期間の長さ(平均約15年)は、高齢の方にとって現実的な選択肢になりにくい大きな要因です。「移植が最良」と「移植が自分に現実的か」は、分けて考える必要があります。
5. 選択肢④ 保存的腎臓療法(CKM)
どんな治療か
保存的腎臓療法(Conservative Kidney Management:CKM)は、末期腎不全になってもあえて透析や移植を行わず、薬による症状のコントロールや、心身・社会的なサポート、緩和ケア的なアプローチを組み合わせて過ごす方法です。「何もしない」のではなく、透析以外のすべての治療を尽くしながら、生活の質を最優先する積極的な選択肢と位置づけられます。
主に、高齢で持病が多い方、体の状態から透析の負担が大きいと予想される方、そして「延命よりも自分らしい時間を優先したい」と考える方にとっての選択肢です。
メリット
- 透析による時間的拘束・体への負担がない
- 入院日数が少なく、住み慣れた自宅や施設で過ごしやすい
- 症状緩和と生活の質に重点を置いたケアが受けられる
デメリット・注意点
- 透析を行う場合と比べ、生存期間が短くなる可能性がある
- 進行に伴う症状(むくみ、だるさ、食欲低下など)への継続的な対応が必要
- 本人・家族が「透析をしない」という選択に納得し、支え合う体制が求められる
エビデンス:CKMは「消極的な諦め」ではない
保存的腎臓療法は、近年の研究で「高齢・多併存疾患の方にとって妥当な選択肢」と評価されるようになってきました。
オランダの70歳以上・366人を対象としたコホート研究では、透析群と保存的ケア群を比較したところ、80歳以上、あるいは重い併存疾患を持つ患者では、透析による生存ベネフィットが縮小または消失しました。さらに、身体的・精神的な健康関連QOLのスコアに両群で差はなく(いずれもP > 0.1)、保存的ケア群のほうが年間の入院しない日数が多く(352.7日 対 282.7日)、治療負担・費用も低かったと報告されています(出典:Verberne WR, et al. BMC Nephrol. 2018, PMID: 30115028)。
オーストラリアの研究では、保存的ケアを選んだ患者のうち3年後も18%が生存しており、透析へ移行した人は8%にとどまりました。また、保存的ケアを選んだ人のほうが専門的な緩和ケアを早期に受けやすく、自宅やホスピスで最期を迎えられる割合が高かったことも示されています(出典:Morton RL, et al. Clin J Am Soc Nephrol. 2016, PMID: 27697783)。
なお、これらは主に高齢者を対象とした観察研究であり、若く体力のある方にそのまま当てはまるものではありません。また患者の背景の違いが結果に影響している可能性がある点にも注意が必要です。

臨床工学技士の視点
かつて「透析をしない」という選択は、現場でもタブーに近い雰囲気がありました。しかし透析患者の平均年齢が70歳を超え、90代で導入を検討する方も珍しくなくなった今、「透析を始めることが本当にその方のためになるのか」を一度立ち止まって考える重要性が増しています。研究が示すのは、特に高齢で持病の多い方では、透析が必ずしも生存期間や生活の質を改善するとは限らないという現実です。保存的腎臓療法は「諦め」ではなく、その人の価値観に沿った積極的な選択肢のひとつだと、現場に立つ立場として考えています。ただし、これは若い方や体力のある方の第一選択という意味ではありません。
6. 4つの選択肢まるわかり比較表
| 比較項目 | 血液透析(HD) | 腹膜透析(PD) | 腎移植 | 保存的腎臓療法(CKM) |
|---|---|---|---|---|
| 治療の場所 | 主に透析施設 | 自宅・職場など | 手術は病院/術後は通院 | 自宅・施設中心 |
| 通院頻度 | 週3回程度 | 月1〜2回程度 | 安定期は1〜3か月毎 | 状態に応じて |
| 1回の拘束時間 | 約4時間 | 交換ごとに数十分 | ― | ― |
| 自己管理の手間 | 比較的少ない | 多い(毎日の交換) | 服薬管理が中心 | 症状に応じたケア |
| 食事・水分制限 | 比較的厳しい | HDより緩やか | 大きく緩和 | 緩和重視 |
| 生命予後の位置づけ | 標準的 | HDと概ね同等 | 4つの中で最も良好とされる | 高齢・多併存では透析と差が縮小 |
| 主な負担・リスク | 時間拘束・シャント管理 | 腹膜炎・自己管理 | 手術・生涯の免疫抑制薬 | 進行に伴う症状管理 |
| 主に向いている方 | 幅広い方 | 生活と両立したい方 | 適応があり待機・手術が可能な方 | 高齢・多併存で負担を避けたい方 |
| あとからの変更 | 可能 | 可能(HDへ移行など) | 機能低下時は透析へ | 状況により透析へ移行可 |
※この表は一般的な傾向を示すものです。個々の適応は年齢・併存疾患・生活状況によって大きく異なります。生命予後の比較は主に観察研究にもとづく傾向であり、個人の結果を保証するものではありません。

7. 「どれを選ぶか」を考えるための5つの視点
4つの選択肢を前にして、「結局どうやって選べばいいのか」と迷われるのは当然です。医学的な適応は主治医が判断しますが、それと並んで大切なのがあなた自身の価値観です。次の5つの視点で、自分の優先順位を整理してみてください。
① 生活の中で何を最優先したいか 仕事を続けたいのか、家庭での時間を大切にしたいのか、通院の手間を減らしたいのか。優先したいものによって、向く選択肢は変わります。
② 自己管理にどれだけ取り組めるか 腹膜透析や移植後の服薬は、自己管理が治療の質を左右します。ご本人・ご家族の状況を正直に見つめることが大切です。
③ 体の状態と年齢 手術に耐えられるか、透析の負担に耐えられるか。特に高齢で持病が多い場合は、保存的腎臓療法を含めた幅広い検討が意味を持ちます。
④ 家族・周囲のサポート体制 在宅で行う方法や、移植のドナーの有無など、周囲の支えが選択を左右する場面があります。
⑤ 「どう生きたいか」という希望 延命を最優先するのか、自分らしい時間の質を優先するのか。この問いに正解はなく、あなたの答えこそが選択の軸になります。
8. 臨床工学技士が伝えたい「選択の注意点」
透析の現場に20年以上立ってきた立場から、選択にあたって心に留めていただきたいことを3つお伝えします。
注意点1:「多数派=自分の正解」ではない 日本では血液透析が圧倒的多数です。しかしそれは、必ずしも「血液透析が全員にとって最良」だからではありません。他の選択肢についてもきちんと説明を受け、比較したうえで選ぶことが大切です。担当医から他の選択肢の説明がなければ、「腹膜透析や移植、保存的療法についても知りたい」と自分から尋ねてよいのです。
注意点2:一度の決断で「一生」が決まるわけではない 腎代替療法は、状況に応じて変更できます。腹膜透析から血液透析へ、透析中に移植の機会が訪れる、といった移行は現場で日常的に起きています。「間違えたら取り返しがつかない」と気負いすぎず、まず今の自分に合う選択から始める、という考え方も現実的です。
注意点3:数字は「集団の傾向」であって「あなたの運命」ではない 本記事で紹介した生存率やハザード比は、大人数の集団を平均した傾向です。同じ選択をしても結果は一人ひとり異なります。数字は判断の材料として使い、最後はあなた自身の状況と希望に照らして決めることをおすすめします。
9. よくある質問(FAQ)
- Q透析はいちど始めたら、もうやめられないのですか?
- A
血液透析・腹膜透析は、腎機能が回復しない末期腎不全では継続が基本となります。ただし、モダリティ(HD・PD・移植)の間の変更は可能です。また、状況によっては保存的療法への移行を含めた話し合いが行われることもあります。具体的な見通しは主治医にご確認ください。
- Q高齢でも移植は受けられますか?
- A
年齢だけで一律に決まるわけではなく、全身状態や併存疾患を含めて総合的に判断されます。ただし日本では献腎の待機期間が平均約15年と長く、高齢の方には現実的なハードルが高いのも事実です。生体腎移植の可能性を含め、移植施設で相談することが第一歩です。
- Q保存的腎臓療法を選ぶと、すぐに何もしてもらえなくなるのですか?
- A
いいえ。保存的腎臓療法は「透析をしない」だけで、薬による症状管理や緩和ケアなど、透析以外のケアは積極的に行われます。研究でも、保存的ケアを選んだ方が専門的な緩和ケアを早期に受けやすい傾向が示されています(出典:Morton RL, et al. 2016)。
- Q腹膜透析は血液透析より体に良いのですか?
- A
一概には言えません。長期の生存率は概ね同等とする報告が多く、合併症の出方に違いがあるという指摘があります。どちらが優れているかではなく、「どちらが自分の生活に合うか」で考えるのが実際的です。
- Q家族に決めてもらってもいいですか?
- A
最終的にはご本人の希望が最も尊重されるべきですが、在宅療法やサポートの面でご家族の関わりは重要です。ご家族と医療者を交えて話し合う「共同意思決定(シェアード・ディシジョン・メイキング)」が理想的とされています。
⚠️ 免責事項 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の治療法を推奨・否定するものではありません。記載した統計・研究データは執筆時点の情報にもとづきますが、最新の状況は変わる可能性があります。実際の治療選択は、必ず主治医・担当医療スタッフと十分に相談のうえ決定してください。腎臓病の症状や治療に不安がある方は、早めに医療機関を受診してください。
10. まとめ——大切なのは「あなたにとっての最善」
腎臓が働かなくなったときの4つの道——血液透析、腹膜透析、腎移植、保存的腎臓療法。それぞれに強みと負担があり、「唯一の正解」は存在しません。
- 血液透析は最も確立され、幅広い方を支えてきた標準的な選択肢
- 腹膜透析は生活との両立を重視する方に向く在宅療法
- 腎移植は生命予後・QOLの両面で最良とされるが、適応と待機のハードルがある
- 保存的腎臓療法は、特に高齢・多併存の方にとって価値ある積極的な選択肢
最新の研究が繰り返し示しているのは、「最善の治療」は集団の平均ではなく、一人ひとりの状況と価値観の中にあるという事実です。数字や一般論を材料にしつつ、最後はあなた自身が「どう生きたいか」を軸に、医療者や家族と一緒に選んでいく。それが、後悔の少ない選択につながると、現場に立つ立場として考えています。
まずは、担当の医師や医療スタッフに「4つの選択肢すべてについて説明してほしい」と伝えることから始めてみてください。
参考文献
- Chaudhry D, Chaudhry A, Peracha J, Sharif A. Survival for waitlisted kidney failure patients receiving transplantation versus remaining on waiting list: systematic review and meta-analysis. BMJ. 2022;376:e068769. PMID: 35232772. DOI
- Verberne WR, Dijkers J, Kelder JC, et al. Value-based evaluation of dialysis versus conservative care in older patients with advanced chronic kidney disease: a cohort study. BMC Nephrol. 2018;19(1):205. PMID: 30115028. DOI
- Morton RL, Webster AC, McGeechan K, et al. Conservative Management and End-of-Life Care in an Australian Cohort with ESRD. Clin J Am Soc Nephrol. 2016;11(12):2195-2203. PMID: 27697783. DOI
- Rosansky SJ, Schell J, Shega J, et al. Treatment decisions for older adults with advanced chronic kidney disease. BMC Nephrol. 2017;18(1):200. PMID: 28629462. DOI
- Ng CH, Ong ZH, Sran HK, Wee TB. Comparison of cardiovascular mortality in hemodialysis versus peritoneal dialysis. Int Urol Nephrol. 2020;53(7):1363-1371. PMID: 33113084. DOI
- Lee JY, Cho H, Park JH, Jo YI. Comparison of survival outcomes in haemodialysis versus immediate-start peritoneal dialysis: A propensity-matched study. Nephrology (Carlton). 2025;30(1):e14418. PMID: 39675379. DOI
- 日本透析医学会. わが国の慢性透析療法の現況(2024年12月31日現在). 日本透析医学会雑誌 2025. https://docs.jsdt.or.jp/overview/
- 日本移植学会. 2024臓器移植ファクトブック(データで見る臓器移植). https://www.asas.or.jp/jst/general/number/
- 日本腎臓学会. 一般のみなさまへ「腎移植」. https://jsn.or.jp/general/kidneydisease/symptoms10.php
本記事における日本透析医学会(JSDT)統計の利用について:統計調査結果はJSDTにより提供されたものですが、結果の利用・解析・解釈は著者が独自に行ったものであり、同会の考えを反映するものではありません。
PubMed収載論文の情報を引用しています。各論文の詳細は上記DOIリンクよりご確認ください。
執筆者プロフィール
臨床工学技士(国家資格) 平成15年(2003年)登録/登録番号 16,000番台 透析・血液浄化 専従20年以上・1万症例以上 北海道内の病院にて透析室・急性期血液浄化を担当
日々の透析医療の現場で得た経験と、査読済みの医学論文にもとづき、患者さんとご家族が「自分で選べる」ための情報発信を行っています。






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