透析をしないとどうなる?余命と経過を臨床工学技士が解説

透析をしない選択について家族と話し合う高齢患者のイメージ 透析
透析をするかしないかは、余命だけでなく生活の質を含めて考える意思決定です。

👨‍⚕️ この記事の執筆者 臨床工学技士(国家資格・平成15年登録/登録番号16,000番台)|透析・急性血液浄化 専従20年以上・1万症例以上|北海道内の病院(透析室・急性期血液浄化)勤務

公開日:2026年7月14日/最終更新日:2026年7月14日

📌 信頼性について この記事は、PubMed収載の査読済み論文と、日本透析医学会(JSDT)の最新統計をもとに、透析現場に20年以上携わってきた臨床工学技士が執筆しています。個人の臨床経験に関する記述は「観察した範囲では」「〜傾向」と限定して表現し、断定を避けています。医学的な最終判断は必ず主治医とご相談ください。


✅ この記事でわかること

  • 透析をしないと体の中で何が起きるのか(尿毒症の経過)
  • 「透析をしない」場合の余命の目安(査読論文の数値)
  • 透析をしない=何もしない、ではない(保存的腎臓療法という選択肢)
  • 余命と生活の質(QOL)はトレードオフになりうること
  • どんな人が「しない」を検討する対象になりやすいか
  • 「透析をしない」意思の裏に、取り除ける苦痛(穿刺の痛みなど)が隠れていないか
  • 迷ったときに担当医・医療チームへ確認すべきこと

「透析をしないとどうなるのか」——これは、腎臓の機能が失われつつある本人やご家族が、いつか必ず向き合う問いです。

日本の透析患者数は、日本透析医学会の統計によると2024年末時点で337,414人、平均年齢は70.27歳と高齢化が進んでいます(出典:日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況」2024年12月31日現在)。新たに透析を導入する患者さんの平均年齢は71.69歳で、80代以降で導入を検討するケースも珍しくありません。

高齢で、他の病気(多疾患併存)や体力の低下(フレイル)を抱える方にとって、「透析を始めるか・始めないか」は、余命だけでなく残りの時間の過ごし方そのものを左右する重い選択です。

この記事では、「透析をしないと体がどうなるのか」を経過・余命・症状の3点から、査読論文と最新統計にもとづいて事実ベースで整理します。特定の選択を勧める記事ではありません。 判断材料を、なるべくフラットにお渡しすることが目的です。

📄 この記事が主に参照した論文・統計

  • Chou A, et al. Nephrol Dial Transplant. 2023;38(2):405-413.(保存的腎臓療法の生存期間・症状・入院)PMID: 35438786
  • Saini T, Murtagh FEM, et al. Palliat Med. 2006;20(6):631-6.(末期腎不全の症状負担)PMID: 17060257
  • Worthington J, et al. Trials. 2024;25(1):688.(透析 vs 保存的療法の比較試験プロトコル)PMID: 39420412
  • 日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況」2024年12月31日現在

1. 透析をしないと体の中で何が起きるのか(尿毒症の経過)

腎臓は、体内の老廃物(尿素窒素・クレアチニンなど)や余分な水分・カリウムを尿として排出し、電解質やpH、血圧、造血ホルモンのバランスを保つ臓器です。腎機能が失われた状態(末期腎不全)で透析による代替を行わないと、これらの調整ができなくなり、尿毒症(uremia) と呼ばれる状態へ進みます。

主に現れうる変化を整理すると、次のようになります。

領域起こりうること
体液・むくみ水分が排出できず、下肢や全身のむくみ、肺に水がたまる(肺水腫)による息苦しさ
電解質カリウムの上昇(高カリウム血症)による不整脈・心停止のリスク
老廃物の蓄積食欲不振、吐き気、倦怠感、皮膚のかゆみ、集中力低下
意識・神経進行すると眠りがちになり、意識レベルが低下していく
全身貧血の進行、血圧コントロールの悪化

尿毒症の進み方には個人差が大きく、残っている腎機能(残腎機能)や尿量、もともとの体力によって経過は変わります。 一般に、むくみ・だるさ・食欲不振といった症状が数週間から数か月かけて緩やかに進み、終末期には傾眠(眠っている時間が増える)へと移行していくことが多いとされています。

臨床工学技士の視点 

「透析をしない=苦しんで亡くなる」というイメージを持たれる方は少なくありません。しかし後述する症状緩和ケアを併用した場合、観察してきた範囲では、痛みよりも「だるさ」「食欲のなさ」「眠気」が前面に出る経過をたどる方が多い印象です。ここは医療チームの関わり方で体験が大きく変わる部分です。


2. 「透析をしない」場合の余命はどのくらいか

もっとも気になるのが余命だと思います。ここは慎重に、数値の「前提」とセットで見る必要があります。

オーストラリアの単施設で行われた前向き観察研究(Chouら, 2023)では、65歳以上・CKDステージ4〜5の患者510人(保存的腎臓療法280人/透析230人)が比較されました。

項目保存的腎臓療法(CKM)透析
平均年齢84歳74歳
治療方針を決めた時点からの生存期間中央値14か月53か月
eGFR≦15になった時点から15か月64か月
予定外の入院(少ない)約2倍多い

出典:Chou A, et al. Nephrol Dial Transplant. 2023;38(2):405-413. PMID: 35438786 / DOI(データはPubMedより取得)

数字だけを見ると「透析のほうが3〜4倍長く生きられる」と読めます。しかし、ここで必ず押さえるべき前提があります。この研究は無作為化比較試験ではなく観察研究であり、保存的療法を選んだ人は平均10歳高齢で、併存疾患も約2倍多かったという点です。

つまり「同じ人が透析をした場合としない場合」を比べているわけではなく、もともと状態の違う集団を比べているため、この生存期間の差をそのまま「透析による延命効果」と解釈することはできません。研究者自身も、この点が観察研究の限界だと指摘しています(Murphyら, 2021, DOI)。

 臨床工学技士の視点 

「透析をすれば何年延びる」という一律の答えは存在しません。特に高齢・フレイルの方では、透析を始めても期待したほど余命が延びない、あるいは通院・穿刺の負担で生活の質が下がる、というケースも臨床では経験します。年齢・併存疾患・体力によって差が大きいことを前提に読んでください。

なお、この不確実性を解消するため、英国では透析と保存的療法を無作為に割り付けて比較する大規模試験(Prepare for Kidney Care) が進行中です(Worthingtonら, 2024, DOI)。将来的にはより確かな比較データが得られる見込みです。


3. 透析をしない=見捨てられる、ではない ── 保存的腎臓療法(CKM)

ここが、この記事でもっとも伝えたい点です。

「透析をしない」は「治療をやめる・何もしない」という意味ではありません。 近年は 保存的腎臓療法(Conservative Kidney Management:CKM) という考え方が確立してきています。透析という腎代替療法は行わず、代わりに次のようなケアを積極的に行う方針です。

  • 症状(むくみ・かゆみ・吐き気・だるさ)を薬や生活調整でやわらげる
  • 食事・水分・カリウムの管理で尿毒症の進行を緩やかにする
  • 貧血や血圧のコントロールを続ける
  • 本人の価値観にそって、過ごす場所(自宅・施設・病院)を選ぶ
  • 家族を含めた心理的サポート、緩和ケアとの連携

実際、前述のChouらの研究では、緩和ケアと統合された「腎臓サポーティブケア(KSC)」プログラムのもとで、保存的療法を選んだ患者の約59%が、3回目の外来受診までに症状の改善を報告しています(PMID: 35438786, DOI)。さらに、予定外の入院は透析群のほうが約2倍多かったと報告されており、「透析をしない=苦しむ」という単純な図式ではないことがわかります。

実体験から

観察してきた範囲では、保存的腎臓療法を選ばれた方が、通院や穿刺の負担から解放されて自宅で穏やかに過ごされるケースがありました。一方で、症状コントロールがうまくいかず後から透析を希望される方もおり、「一度決めたら変えられない」ものではない、という点も大切だと感じています。個々の経過はあくまで人それぞれです。

透析室で医療者に支えられる高齢患者のイメージ
透析の継続は、身体だけでなく苦痛への配慮を含めたチーム医療で支えられます。

4. 余命は延びても、生活の質はどうか

透析は延命に寄与しうる一方で、生活の質(QOL)や症状負担という側面も無視できません。

末期腎不全の症状負担については、古典的なパイロット研究(Sainiら, 2006)が印象的な結果を示しています。保存的療法を選んだ進行した腎不全の患者と、終末期のがん患者を比較したところ、両群の症状負担・生活の質のスコアはほぼ同等であり、腎不全の患者も終末期がん患者に匹敵する高い症状負担と心理的苦痛を抱えていた、と報告されました(PMID: 17060257, DOI)。

これは「保存的療法だから楽」という意味ではなく、末期腎不全そのものが(透析の有無にかかわらず)緩和ケアを必要とするほど症状の重い状態であることを示しています。だからこそ、透析をしない選択をする場合には、症状を管理する体制が不可欠になります。

英国の比較試験(Prepare for Kidney Care)でも、主要評価項目に単純な「生存年数」ではなく 「質調整生存年(QALY:生活の質で重みづけした生存年)」 が採用されています(Worthingtonら, 2024, DOI)。これは、医療の世界でも「どれだけ長く」だけでなく「どれだけその人らしく」を重視する方向へ動いていることの表れです。


5. どんな人が「透析をしない」を検討する対象になりやすいか

保存的腎臓療法は、すべての人に等しく勧められるものではありません。国際的な研究で対象とされているのは、おおむね次のような方です。

  • 80歳以上(フレイルや併存疾患の有無を問わず)
  • 65〜79歳で、フレイルまたは多疾患併存がある

(Worthingtonら, 2024の対象基準より, DOI

若く、他に大きな病気のない方であれば、透析による延命効果はより明確に期待でき、多くの場合は透析導入が第一選択になります。一方で、高齢かつ体力が低下し、複数の病気を抱える方では、透析の負担と得られる延命効果のバランスが人によって変わってくる、というのが現在の考え方です。

 臨床工学技士の視点 年齢だけで機械的に判断できるものではありません。同じ85歳でも、お元気な方と、寝たきりに近い方では話がまったく異なります。「数値上の余命」ではなく「その人がどう過ごしたいか」を軸に、医療チームと繰り返し話し合う(共同意思決定)ことが何より重要だと考えています。


6. 臨床工学技士が考える「透析をしない選択」の注意点

透析装置を扱う立場から、判断の前に知っておいてほしい点を整理します。

① 「しない」は撤回できる場合がある 保存的療法を選んでも、症状が強くなったときに透析へ切り替えられるケースがあります。最初の決断がすべてを縛るわけではありません。ただし体力が落ちてからの導入は負担が大きいため、方針は早めに医療チームと共有しておくのが望ましいです。

② 症状緩和の体制があるかを確認する 保存的療法の質は、緩和ケア・サポーティブケアの体制に大きく左右されます。「透析をしない」という選択が成り立つのは、症状を診てくれる体制が前提です。かかっている施設にその体制があるかは、遠慮なく確認してよい点です。

③ 数値は「前提つき」で読む 本記事で紹介した生存期間の数値は、多くが観察研究のもので、比較された集団の背景が異なります。「透析すれば何年延びる/しなければ何か月」という数字を、自分にそのまま当てはめないでください。

④ 家族だけで抱え込まない 本人・家族・医師・看護師・臨床工学技士・ソーシャルワーカーなど、多職種で話し合う場(アドバンス・ケア・プランニング)が用意されています。一人で、あるいは家族だけで結論を出す必要はありません。


【現場から】穿刺の苦痛が「透析拒否」につながった一例

臨床工学技士の実体験

 ここまで「透析をしない選択」を扱ってきましたが、実際の現場では、腎不全そのものではなく“針を刺す苦痛”が透析継続の壁になることがあります。観察した一例を、個人が特定されない形に整えて紹介します。

血管に針を刺す際の痛みが非常に強く、麻酔テープなどの疼痛緩和策を講じても効果が乏しい患者さんがいました。その苦痛から透析を受けること自体が嫌になり、2回にわたって透析を拒否されたことがあります。いずれもガイドラインに沿った手続きを踏み、ご本人の意思を尊重する形で見合わせました。

しかし2回とも、見合わせから10〜14日ほどで心不全を起こし、呼吸の苦しさに耐えられなくなって透析の再開を希望されるという経過をたどりました。一度透析を導入した方は残っている腎機能が乏しく、水分が抜けないことで溢水・心不全が比較的短期間で進みうる——これを実感した経過でした。

拒否される前から、私たちは苦痛の少ない選択肢としてバスキュラーアクセスを長期留置カテーテルへ変更することを提案していましたが、なかなか受け入れてはもらえませんでした。転機となったのは2回目の透析復帰のときです。ここで承諾が得られ、長期留置カテーテルを植え込みました。

結果として穿刺の苦痛がなくなり、安堵されたのか、その後は透析を継続できるようになりました。最も印象に残っているのは、アクセス変更の前後で変わった表情です。日常的に苦痛に満ちていた顔に、笑顔が見られるようになった——これは今も忘れられません。

アクセス変更後、穏やかな表情を取り戻した透析患者のイメージ
穿刺の苦痛が取り除かれ、透析を続けられるようになった患者さんのイメージ。

この一例から考えること 

これはあくまで観察した1例であり、一般化できるものではありません。ただ、少なくともこのケースでは「透析を拒否する理由」は腎不全への諦めではなく穿刺の苦痛であり、その原因に技術的に対処したことで、ご本人の選択が変わりました。「透析をしない」という意思の背景に、取り除ける苦痛が隠れていないか——医療チームが立ち止まって確認する意味を、この経過は教えてくれます。もし針の痛みが理由で透析がつらいと感じている方は、我慢せず、まず担当の医師・臨床工学技士にご相談ください。穿刺方法やアクセスの見直しで、状況が変わることがあります。


7. よくある質問(FAQ)

Q
透析をしないと、どれくらいで亡くなりますか?
A

残っている腎機能や体力によって大きく異なり、一律には言えません。参考として、高齢者を対象とした観察研究では保存的療法を選んだ方の生存期間中央値は方針決定時点から約14か月と報告されていますが(PMID: 35438786)、これは平均84歳・併存疾患の多い集団の数字です。ご自身の見通しは主治医にご確認ください。

Q
透析をしないと、最期は苦しいのですか? 
A

末期腎不全は症状負担の重い状態ですが(PMID: 17060257)、緩和ケアを併用することで、むくみ・かゆみ・吐き気・だるさなどはある程度やわらげられます。終末期は眠っている時間が増える経過をたどることが多いとされています。

Q
一度「透析をしない」と決めたら、もう変えられませんか? 
A

必ずしもそうではありません。症状の変化に応じて透析を開始できる場合があります。方針は固定ではなく、状況に合わせて医療チームと見直すものです。

Q
家族として、本人にどう向き合えばよいですか?
A

「延命の是非」ではなく「本人がどう過ごしたいか」を一緒に確認するのが出発点です。担当医や看護師、緩和ケアチームに同席してもらい、共同意思決定の場を設けることをお勧めします。

Q
保存的腎臓療法はどこでも受けられますか?
A

施設によって、緩和ケア・サポーティブケアの体制には差があります。まずはかかりつけの腎臓内科で、その施設の対応状況を確認してください。

Q
針を刺す痛みがつらくて透析を続けられません。「やめる」しかないのでしょうか? 
A

「やめる」の前に、まず苦痛を減らす方法を試す価値があります。穿刺方法の工夫や、バスキュラーアクセスを長期留置カテーテルへ変更することで、針の痛みそのものをなくせる場合があります。透析がつらい理由が「腎不全」ではなく「穿刺の痛み」であれば、そこに対処することで続けられるようになることがあります。我慢せず、担当の医師・看護師・臨床工学技士に相談してください。


⚠️ 免責事項 本記事は、透析・末期腎不全に関する一般的な情報提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。記載した数値は特定の研究集団のもので、読者ご自身の状況にそのまま当てはまるとは限りません。透析の実施・見合わせを含む治療方針は、必ず主治医・担当の医療チーム(医師・看護師・臨床工学技士など)とご相談のうえ、ご本人の価値観にそって決定してください。急な体調変化がある場合は速やかに医療機関へご連絡ください。


参考文献

  1. Chou A, Li C, Farshid S, Hoffman A, Brown M. Survival, symptoms and hospitalization of older patients with advanced chronic kidney disease managed without dialysis. Nephrol Dial Transplant. 2023;38(2):405-413. PMID: 35438786. https://doi.org/10.1093/ndt/gfac154
  2. Saini T, Murtagh FEM, Dupont PJ, McKinnon PM, Hatfield P, Saunders Y. Comparative pilot study of symptoms and quality of life in cancer patients and patients with end stage renal disease. Palliat Med. 2006;20(6):631-6. PMID: 17060257. https://doi.org/10.1177/0269216306070236
  3. Worthington J, et al. Preparing for responsive management versus preparing for renal dialysis in multimorbid older people with advanced chronic kidney disease (Prepare for Kidney Care): Study protocol for a randomised controlled trial. Trials. 2024;25(1):688. PMID: 39420412. https://doi.org/10.1186/s13063-024-08509-8
  4. Murphy E, Burns A, Murtagh FEM, Rooshenas L, Caskey FJ. The Prepare for Kidney Care Study: prepare for renal dialysis versus responsive management in advanced chronic kidney disease. Nephrol Dial Transplant.2021;36(6):975-982. PMID: 32940683. https://doi.org/10.1093/ndt/gfaa209
  5. 日本透析医学会統計調査委員会.「わが国の慢性透析療法の現況(2024年12月31日現在)」日本透析医学会, 2025. https://docs.jsdt.or.jp/overview/

※上記の研究データはPubMedより取得しました。統計調査結果は日本透析医学会により提供されたものですが、結果の利用・解析・解釈は執筆者が独自に行っており、同会の考えを反映するものではありません。


執筆者プロフィール

臨床工学技士(国家資格) 平成15年(2003年)登録/登録番号16,000番台。透析・腹膜透析・急性血液浄化を専門に、専従20年以上・1万症例以上の臨床経験を有する。北海道内の病院にて透析室・急性期血液浄化業務に従事。医療機器の安全管理と、患者・家族の意思決定支援に日々携わっている。


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