臨床工学技士のAI活用術|現場20年目がClaudeを毎日使う理由

ノートPCで生成AIを使う臨床工学技士のデスク 医療・CE業務
AIは"もう一人の自分"として思考を助けてくれる

👨‍⚕️ この記事の執筆者 臨床工学技士(国家資格・2003年登録/登録番号16,000番台) 透析・急性血液浄化を専門に20年以上、1万症例以上に従事。北海道内の病院で透析室・急性期血液浄化を担当。

公開日:2026年7月14日 / 最終更新日:2026年7月14日


✅ この記事でわかること

  • 現場の臨床工学技士がAI(Claude)を「何に」「どう」使っているか
  • AIを使って”うまくいったこと”と”うまくいかなかったこと”の本音
  • 患者情報・医療情報を扱ううえで絶対に守っているルール
  • CEという職種にとってAIスキルがなぜキャリアの保険になるのか

はじめに──「AIに仕事を奪われる」より前に考えたこと

同業の方に「AI、使ってる?」と聞くと、返ってくる反応はだいたい二つに分かれます。「怖いから触ってない」か、「一回試したけど、たいしたことなかった」か。

正直に言うと、私も最初は後者でした。数年前、話題になった生成AIに「透析の抗凝固剤について教えて」と聞いて、それっぽいけれど微妙に古い・微妙に間違った答えが返ってきて、「まあこんなものか」と一度離れました。

考えが変わったのは、AIを「答えを出す機械」ではなく「壁打ち相手」として使い始めてからです。今では業務のかなりの部分で、私はClaude(Anthropic社の生成AI)を”もう一人の自分”として使っています。

この記事は、AIの一般論ではありません。透析専従20年の臨床工学技士が、実際の現場でどう使い、どこで失敗したかという体験談です。同じ医療職の方が「じゃあ自分ならここに使えそうだ」とイメージできることを目指して書きました。

臨床工学技士の視点

断っておくと、私はAIの専門家ではありません。エンジニアでもありません。あくまで「現場の一技士が、日常業務の中でどこまで役に立てられたか」という一次情報です。専門的な検証ではなく、実感ベースの話として読んでください。


目次

  1. なぜ「Claude」を主軸にしているのか
  2. 実際に毎日使っている5つの場面
  3. うまくいかなかったこと・やめたこと
  4. 医療者が絶対に守るべき”入力しないルール”
  5. AI活用は、CEにとってキャリアの保険になる
  6. これから始める人への現実的な第一歩
  7. よくある質問(FAQ)

1. なぜ「Claude」を主軸にしているのか

生成AIはいくつもありますが、私は用途で使い分けています。ざっくり言うと、思考の整理と文章はClaude、画像生成は別ツール、最新情報の調査はまた別ツールという役割分担です。

そのうえでClaudeを主軸にしている理由は、実務での相性が良かったからで、次の3点に集約されます。

  • 長い文章・複雑な文脈を扱うのが得意:委員会資料や手順書のような、長くて論理構造のある文章の相談に向いている
  • 「わからないことをわからない」と言う傾向:断言せず限界を示してくれる場面が多く、医療者として安心して”疑いながら”使える
  • 対話しながら詰めていける:一発で完璧な答えを求めるのではなく、こちらの前提を伝えながら精度を上げていく使い方が自然にできる

臨床工学技士の視点

どのAIが一番優秀か、というランキングにはあまり意味がないと思っています。大事なのは「自分の業務フローに馴染むか」。私の場合はたまたまClaudeが合っただけで、看護師の同僚には別のツールが合っている人もいます。道具は自分に合うものを選べばいい、というのが本音です。


2. 実際に毎日使っている5つの場面

抽象論だと伝わりにくいので、具体的な使い方を挙げます。どれも特別なことはしていません。

① 資料・文書のたたき台づくり

委員会資料、勉強会スライドの構成案、機器更新の稟議に添える説明文。こうした「ゼロから書き始めるのが一番しんどい」作業で、まず骨子を相談します。

たとえば「透析装置の更新提案を、経営層向けに5分で説明する構成を考えたい」と伝えると、論点の抜けを指摘してくれたり、コスト比較の切り口を整理してくれたりします。完成品をもらうのではなく、白紙の恐怖を消してもらうイメージです。

② 手順書・マニュアルの見直し

既存の手順書を貼り付けて、「新人が読んで詰まりそうな箇所」「順番が前後している工程」を指摘してもらう使い方です。20年もやっていると、自分にとって当たり前すぎて説明が飛んでいる工程に気づけないもので、そこを客観的に拾ってくれます。

③ 学習・自己研鑽の相棒

新しい治療モードや、久しぶりに扱う急性期の血液浄化について、頭を整理したいときに使います。ただし後述するとおり、AIの説明を鵜呑みにはせず、必ず一次資料(ガイドライン・論文)で裏を取るのが前提です。AIは「理解の入口」であって「根拠」ではありません。

④ 思考の壁打ち・意思決定の整理

私はキャリアの岐路にいることもあり(勤務先の閉院が控えています)、「今の専門を活かす道と、新しい挑戦をする道、それぞれのメリット・デメリットを整理したい」といった相談もします。答えを出してもらうのではなく、自分の頭の中を言語化して並べ直すために使う。これがいちばん価値を感じている使い方かもしれません。

実体験から

私はもともと、少し突飛な発想をすることがあり、そのまま提案するとスタッフに受け入れられにくい場面がありました。そういうアイデアを一度AIに壁打ちすると、感覚的だった部分に客観的な根拠や別の切り口が加わり、説明の筋道が整理される。観察した範囲では、その状態で提案し直すとスタッフの反応が明らかに違い、受け入れられやすくなった経験が何度かありました。私の思いつきを「一人よがりでない形」に翻訳してくれる役割として、AIが効いている印象です。もちろん、通したいアイデアの中身そのものは自分で吟味する前提です。

⑤ 数字・データの整理

Excelの関数を組みたいとき、月次レポートの集計ロジックを考えたいとき。プログラミングは専門外ですが、「こういう集計をしたい」と日本語で伝えると、具体的な式や手順を提案してくれます。技術的な部分を外注する感覚で使えます。

実体験から

観察した範囲では、いちばん効果が大きかったのは①と②の「文書系」でした。私の体感では、資料作成の初速が明らかに上がった印象があります。ただしこれは私が文章仕事を多く抱えているからで、業務内容によって効果の出る場所は変わると思います。断言はできません。


3. うまくいかなかったこと・やめたこと

良い話ばかりでは信用できないと思うので、失敗も正直に書きます。

  • 医療の細かい数値をそのまま信じて痛い目を見かけた:ある治療条件の目安をAIの回答だけで済ませようとして、ガイドラインと照合したら微妙にズレていた。以来、臨床判断に関わる数字は必ず一次資料で確認する、を鉄則にしています。
  • 「丸投げ」は結局うまくいかない:曖昧な指示には曖昧な答えしか返ってきません。前提・目的・読み手を具体的に伝えないと使い物にならない。これは人に仕事を頼むのと同じです。
  • 完成品として出そうとすると危険:AIの文章はそれっぽく整っているぶん、間違いに気づきにくい。必ず自分の目と知識でチェックしてから世に出す。この一手間を省いた瞬間に事故ります。

臨床工学技士の視点

AIは「優秀だが自信過剰な後輩」だと思うようにしています。仕事は速いし賢いけれど、たまに堂々と間違える。だから最終責任者である自分が必ず確認する。医療で私たちがダブルチェックを徹底しているのと、同じ発想です。


4. 医療者が絶対に守るべき”入力しないルール”

ここは体験談ではなく、明確な線引きとして書きます。医療職がAIを使ううえで、これだけは外せません。

  • 患者情報は入力しない:氏名・ID・生年月日はもちろん、組み合わせれば個人が特定されうる情報(珍しい病態+施設名+日付など)も入れない。院内規程・個人情報保護の観点から当然のラインです。
  • 施設の機密情報を入力しない:契約金額、経営データ、未公開の運用情報などは扱わない。
  • 臨床判断に直結する情報は必ず裏を取る:AIの回答を根拠として患者対応を変えない。ガイドライン・添付文書・論文で確認する。
  • 院内・法人のルールを最優先する:勤務先に生成AIの利用規程がある場合はそれに従う。ない場合も、情報システム部門や上長に確認してから使うのが安全です。

⚠️ この4点は「便利さ」より常に優先されます。ひとつでも破ると、業務効率化どころか重大なインシデントになりかねません。


5. AI活用は、CEにとってキャリアの保険になる

ここからは少しキャリアの話をさせてください。

臨床工学技士という仕事は、専門性が高いぶん、活躍の場が装置や施設に紐づいています。裏を返せば、施設の事情(統廃合・移管・閉院)に自分のキャリアが左右されやすい職種でもあります。私自身、勤務先の閉院という現実に直面して、そのことを痛感しています。

そのときに効いてくるのが、「専門技術」+「それを外に伝える力」の掛け算だと考えています。透析や血液浄化の知識は替えのきかない資産ですが、それを資料化し、教育し、仕組みにして残す力があると、活躍できる場所が一気に広がります。AIは、この後者の力を底上げしてくれる道具です。

  • 手順書・教育資料を短時間で形にできる → 教える側・仕組みを作る側に回れる
  • 数字を整理して提案できる → 現場だけでなくマネジメントの言葉が使えるようになる
  • 情報発信ができる → 施設の外に自分の名前と専門性を置いておける

実体験から

私はブログという形で外に発信を続けていますが、その下書きや構成整理にもAIを使っています。観察した範囲では、発信を通じて「自分が何を専門にしてきたか」を言語化できたこと自体が、キャリアを考えるうえで一番の財産になった気がしています。これも人によりますが、CEこそ”外に出る力”を持っておいて損はないと感じています。

念のため釘を刺しておくと、AIが専門知識そのものを与えてくれるわけではありません。土台になるのは、あくまで現場で積んだ経験と知識です。AIはそれを増幅する装置であって、中身を代わりに作ってはくれません。ここを取り違えると、”それっぽいだけの人”になってしまいます。


6. これから始める人への現実的な第一歩

「よし使ってみよう」と思った方へ、現実的な始め方を。大げさな準備は要りません。

  1. 患者情報を含まない、雑用系の文章仕事から試す:勉強会の案内文、議事録の整形、メールの下書きなど。失敗してもリスクがない領域から。
  2. 「頼み方」を意識する:前提・目的・読み手を具体的に伝える。良い答えは良い問いから返ってきます。
  3. 必ず自分で最終チェックする:出てきたものを鵜呑みにしない癖を、最初のうちから付ける。
  4. 合わなければ別のツールを試す:Claudeが合わなければ他のAIでもいい。道具は自分に馴染むものを。

臨床工学技士の視点

完璧に使いこなそうとしなくていいと思います。私も全機能を把握しているわけではありません。「今日のこの面倒な作業、AIに手伝ってもらえないかな」と一つ試すだけで十分です。小さく始めて、合うところだけ残していく。それで十分に元は取れます。


よくある質問(FAQ)

Q
AIを使うと、自分で考えなくなりませんか?
A

使い方次第です。私は「答えをもらう」のではなく「考えを整理する相手」として使っているので、むしろ考える回数は増えました。丸投げすると考えなくなる、という指摘はそのとおりだと思います。

Q
無料でも使えますか?
A

多くの生成AIに無料枠があり、試すだけなら費用はかかりません。私は使用頻度が高いので有料プランを使っていますが、まず無料で相性を確かめるので十分です。

Q
医療の専門的な質問に使っても大丈夫ですか?
A

「理解の入口」としてはよいですが、「根拠」にはしないでください。臨床判断に関わる内容は、必ずガイドラインや論文など一次資料で確認することが前提です。

Q
患者さんの相談内容を入力して整理してもらってもいい?
A

いいえ。個人が特定されうる情報は入力しない、が原則です。相談内容を扱いたい場合も、個人情報を完全に除いた一般化した形にしてから、という配慮が必要です。院内規程を最優先してください。


⚠️ 免責事項

本記事は、一臨床工学技士の個人的な経験と見解に基づく情報提供であり、特定のツールの利用を推奨・保証するものではありません。生成AIの仕様や性能は随時変化します。業務での利用にあたっては、必ず所属施設の情報管理規程・個人情報保護方針に従ってください。医療上の判断は、ガイドライン・添付文書等の一次資料および主治医・担当者の判断に基づいて行ってください。


執筆者プロフィール

臨床工学技士(国家資格) 2003年登録/登録番号16,000番台。透析・腹膜透析・急性血液浄化を専門に20年以上、1万症例以上に従事。北海道内の病院で透析室・急性期血液浄化を担当。現場業務のかたわら、医療とAI・業務効率化・キャリアをテーマに情報発信を続けている。


コメント

タイトルとURLをコピーしました