この記事を書いた人:Dialysis Dad(臨床工学技士・透析従事歴20年以上 / 総合病院勤務) 令和8年4月30日付「地医第185号」・令和8年6月18日付「地医第482号」(いずれも北海道保健福祉部長通知)および厚生労働省の関連資料を一次読みし、CE視点で解説しています。 → 詳しいプロフィールはこちら(内部リンク:/profile-ce-dialysis-20years/)
記事公開日:2026年7月|最終更新日:2026年7月
📌 この記事の信頼性 本記事は、北海道保健福祉部発出の通知文(地医第185号・地医第482号)、厚生労働省「医療分野における業務効率化・職場環境改善支援事業実施要綱」(医政発0213第22号 別紙)、および厚労省が示したデータ提出項目例の原文に基づき、病院で機器管理・経営層向け資料作成に携わる現役臨床工学技士が執筆しています。
✅ この記事でわかること
- 意向調査の結果:全国の要望額2,652億円 vs 予算300億円という現実
- 「相当程度限定される」採択枠を勝ち取るための計画書のポイント
- 北海道の申請スケジュールと提出方法(締切:令和8年7月17日)
- 採択後に提出義務が生じるデータ項目と、申請前にやるべき「ベースライン計測」
- 補助金返還リスクと、不採択でも無駄にならない「次年度への布石」
はじめに:状況は「申請すれば通る」から「選ばれる」フェーズへ
以前の記事(ME機器補助金2026|最大8,000万円・補助率4/5をCEが解説)で、令和8年度「医療分野における業務効率化・職場環境改善支援事業」の概要をお伝えしました。補助率4/5・上限8,000万円という異例の好条件は変わっていません。
しかしその後、状況を大きく変える通知が発出されました。
2026年2月に実施された意向調査の結果、全国の要望額は2,652億円。これに対し、国・地方負担分をあわせた予算額は300億円(出典:地医第185号、令和8年4月30日)。
単純計算で、要望の約11%しか予算がないということです。北海道の通知文にも「補助対象となる病院数は相当程度限定されることになる」と明記されました。
つまりこの補助金は、「手を挙げれば貰える」ものではなく、計画書の質で選抜される競争的資金に性格が変わりました。本記事では、この前提のもとで「採択される計画書」をどう作るか、CEの実務目線で解説します。
1. 意向調査の結果:2,652億円 vs 300億円という現実
北海道保健福祉部の通知(地医第185号)で示された数字を整理します。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 全国の要望額(意向調査) | 2,652億円 |
| 予算額(国・地方負担分あわせて) | 300億円 |
| 要望額に対する予算の割合 | 約11.3% |
仮に全病院が上限近くまで要望していたとしても、採択されるのは要望病院の1〜2割程度と見込むのが現実的です。1施設あたり上限8,000万円で単純計算すれば、300億円 ÷ 8,000万円 = 375施設分。実際は満額申請ばかりではないのでもう少し増えますが、全国約8,000の病院に対して桁が一つ足りません。

臨床工学技士の視点
この数字を見て「どうせ通らない」と諦めるのは早計です。厚労省の選定基準は「要件を満たし、その内容が本事業の趣旨に合致していると厚生労働大臣が認めたもの」であり、都道府県の意見や実情も踏まえて選定されます。つまり金額の大小ではなく計画の質と実現可能性で選ばれる設計です。むしろ、身の丈に合った金額で、定量目標が明確な計画のほうが採択されやすい可能性があります。
2. 北海道の申請スケジュールと提出方法(締切7月17日)
令和8年6月18日付の通知(地医第482号)で、北海道の申請受付が正式に始まりました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 病院(保険医療機関コードが発行され、令和8年4月1日〜申請時点まで診療報酬請求実績がある施設) |
| 提出書類 | 業務効率化計画書(Excel形式) |
| 提出方法 | 道庁地域医療課HPから様式をダウンロードし、提出フォームにアップロード |
| 提出期限 | 令和8年7月17日(金) |
| 選定 | 8月上旬以降、厚生労働省が補助対象病院を選定 |
注意点が2つあります。
① 国からの内示後に実施した事業のみが補助対象 内示(8月上旬以降)より前に契約・発注した機器は対象外です。フライング発注は補助金を丸ごと失います。
② 年度内(令和9年3月31日まで)に完了した事業のみが補助対象 内示が8月として、選定・見積・契約・納品・設置・検収までを実質7〜8ヶ月で完了させる必要があります。Wi-Fi工事を伴う大規模案件は、ベンダーの工事スケジュールを今のうちに仮押さえしておくべきです。

実体験から
私の観察した範囲では、院内ネットワーク工事を伴うシステム導入は、契約から稼働まで4〜6ヶ月かかるケースが多い印象です。年度末は各病院の駆け込み需要でベンダーの工事枠が埋まりやすい傾向もあります。「内示が出てから動く」では間に合わないリスクを、計画段階で経営層と共有しておくことをお勧めします。
※他の都道府県は締切・提出方法が異なります。必ず自院の所在する都道府県の担当課にご確認ください。
3. 採択される計画書の4つの必須要素
実施要綱(医政発0213第22号 別紙)が求める計画書の要素は次の4つです。競争率を考えると、「要件を形式的に満たす」だけでなく、審査する側が成果を確信できる書き方が求められます。
(1)業務効率化推進委員会:経営層主導のPDCA
院長・副院長等の管理者が委員長となる委員会の設置が必須です(既存委員会の活用も可)。ポイントは「評価と見直しの仕組みを必ず設けること」が要綱に明記されている点。委員会の開催頻度・評価指標・見直しのトリガーまで書面化されている計画は、それだけで実行力の証明になります。
(2)具体的かつ定量的な効率化目標
「対前年同月比●%以上」のように測定・評価可能な目標が必須です。CEに直結する例示として、要綱には引き続き
臨床工学技士が中央管理するME(医用工学)機器割合の増
が明記されています。前回記事でも触れたとおり、CE中央管理の推進は国が認めた効率化目標です。ここに「機器捜索時間の減」「点検期限切れ件数ゼロ」などを組み合わせ、数値で示しましょう。

臨床工学技士の視点:目標設定の落とし穴
定量目標は「高ければ良い」わけではありません。後述のとおり、成果が認められなければ補助金返還を求められる場合がある制度です。中央管理率を現状50%→目標100%と書けば見栄えは良いですが、達成できなければ返還リスクに直結します。私なら「1年目70%、2年目85%、3年目95%」のように、段階的かつ達成根拠(対象機器台数の内訳)を添えた目標を設定します。審査側から見ても、根拠のある段階目標のほうが信頼性は高いはずです。
(3)業務手順の見直し・タスクシフト/シェアの具体策
「機器を買って終わり」の計画は要綱の趣旨に反します。「機器等を導入する場合は、最大限の効果を発揮できるよう、必要に応じて業務手順を見直すこと」と明記されています。バーコード管理システムを入れるなら、貸出・返却・点検のフローを誰がどう変えるのか、看護部との運用ルールをどう再設計するのかまで書き込みます。
(4)ランニングコストの確保方針
運用・保守費用等のランニングコストは補助対象外であり、「業務効率化によって賄われるべき」という考え方が要綱に示されています。つまり計画書には「削減される超過勤務手当◯◯万円/年で保守費◯◯万円/年を賄う」といった収支の見通しを書く必要があります。これは経営層への院内プレゼン資料とほぼ同じ構造なので、CEが数字を作れれば計画書作成でも主導権を握れます。
4. 【最重要】申請前に始めるべき「ベースライン計測」
今回、厚労省から「補助対象決定後のデータ提出項目例」が示されました。採択された病院は、おおむね次のデータ提出が求められる想定です。
| カテゴリ | 提出データの例 |
|---|---|
| 効率化・負担軽減 | 導入したICT機器等に対応する業務時間を導入前の連続5日間と導入後6ヶ月・1年後の連続5日間で計測/関係職員の総労働時間・超過勤務時間(導入前1ヶ月と導入後6ヶ月・1年後の各1ヶ月)/職員配置人数(常勤換算) |
| 医療安全の確保 | インシデント件数(レベル3b以上)を導入前のある1月と1年後の同月で比較/導入機器に関連するインシデント件数 |
| 経営状況 | 関係職員の超過勤務手当の1人当たり平均額(導入前後の同月比較)/委託費への影響がある場合はその比較データ |
ここで注目すべきは「導入前」のデータが必ず要求されることです。

臨床工学技士の視点:今から計測を始める理由
「導入前の連続5日間の業務時間計測」は、採択が決まってから慌てて取るものではありません。申請段階でベースラインデータを持っている病院は、計画書の定量目標に実測値の根拠を付けられるからです。「機器捜索に1日平均◯分(2026年7月実測)→ 導入後◯分に短縮(◯%減)」と書ける病院と、「短縮を見込む」としか書けない病院、どちらが約11%の採択枠に入るか——答えは明白だと私は考えます。ストップウォッチとExcelがあれば今日から始められます。機器の貸出・返却・捜索・点検にかかる時間を、まず5日間記録してみてください。仮に今年度不採択でも、このデータは院内の業務改善提案と次年度申請にそのまま使えます。
5. 補助金返還・成果公表のリスクを正しく理解する
通知文で改めて強調されているリスクを整理します。
- 成果が認められなかった場合、補助金の返還を求められる場合がある(災害等やむを得ない場合を除く)
- 取組内容とその成果は厚生労働省から公表される
- 申請内容を偽った場合は補助金全額の返還
- 導入した機器の製品名・価格等の情報提出を求められることがある
- 計画は最大3年間だが、2年目・3年目の経費補助は保証されない
「成果の公表」は諸刃の剣です。達成できれば病院の広報材料になりますが、未達なら病院名とともに公になります。だからこそ前述の「達成根拠のある段階的目標」が重要です。
また、電子カルテの更新費用や単なるPC入れ替え、ランニングコストは補助対象外である点も再確認してください。
6. 不採択でも終わりではない:制度恒久化の見込み
競争率を考えると、多くの病院は今回不採択になります。しかし通知文には重要な一文があります。
今国会に提出している「健康保険法等の一部を改正する法律案」が成立した場合には、今後は、地域医療介護総合確保基金に計上される予算の範囲内となりますが、継続的に補助事業を実施することができるようになります。(地医第185号)
つまり法案が成立すれば、この事業は単年度限りではなく、地域医療介護総合確保基金の枠組みで継続する見込みです。

臨床工学技士の視点
これは「今年ダメでも来年がある」という話にとどまりません。今年の申請プロセスで作った計画書・委員会体制・ベースラインデータは、来年度以降そのまま資産になります。逆に言えば、今年何も動かなかった病院は来年も同じスタートラインからです。私は「今年の申請は、たとえ不採択でも次年度採択のための投資」と割り切って準備する価値があると考えています。
よくある質問(FAQ)
- Q意向調査に回答していない病院でも申請できますか?
- A
通知文上、意向調査への回答が申請の前提条件とは明記されていません。ただし都道府県が実情を踏まえて国に意見する仕組みのため、事前に都道府県の担当課(北海道の場合:地域医療推進局地域医療課)へ相談することをお勧めします。
- Q採択の倍率はどのくらいですか?
- A
正確な倍率は公表されていませんが、要望額2,652億円に対し予算300億円(約11.3%)です。金額ベースでは要望の1割強しか採択されない計算になります(出典:地医第185号)。
- Q内示前に機器を発注してしまった場合は?
- A
国からの内示後に実施した事業のみが補助対象です。内示前の契約・発注分は対象外となるため、発注のタイミングは必ず事務部門と調整してください(出典:地医第482号)。
- Q導入前のデータ計測は義務ですか?
- A
データ提出義務が生じるのは補助対象に決定した後です。ただし提出項目に「導入前の連続5日間の業務時間計測」等が含まれるため、申請段階から計測を始めておくことが実務上は合理的です(出典:厚労省・データ提出項目例)。
- Q令和9年度以降のソフトウェア利用料は補助されますか?
- A
されません。補助対象となるのは令和8年度中(令和8年4月1日〜令和9年3月31日)に生じる最大12ヶ月分の利用料までで、令和9年度以降の経費への支援は行えないと要綱に明記されています。
⚠️ 免責事項 本記事は2026年7月時点で公表されている通知文・実施要綱に基づく情報提供であり、補助金の採択を保証するものではありません。制度の詳細・最新情報は必ず各都道府県の担当課および厚生労働省の公式資料でご確認ください。申請の判断は各医療機関の責任において行ってください。
参考資料
- 厚生労働省医政局長「令和8年度(令和7年度からの繰越分)医療分野における業務効率化・職場環境改善支援事業の実施について」(医政発0213第22号、令和8年2月13日)
- 北海道保健福祉部長「令和8年度『医療分野における業務効率化・職場環境改善支援事業』の実施に係る今後の対応について(通知)」(地医第185号、令和8年4月30日)
- 北海道保健福祉部長「令和8年度『医療分野における業務効率化・職場環境改善支援事業』の業務効率化計画書の提出について(通知)」(地医第482号、令和8年6月18日)
- 北海道地域医療課ホームページ:https://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/cis/257305.html
- 厚生労働省「医療分野における生産性向上に対する支援」概要資料(医政局医療経営支援課)
執筆者プロフィール
臨床工学技士(国家資格・登録番号16,000番台)。2003年取得、北海道内の総合病院で透析・急性期血液浄化を専門に20年以上従事。透析室の機器管理・経営層向け意思決定資料の作成に携わる。透析CE実践ノート運営者。




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