透析専門医不在でも回る医師体制|2層設計と分散管理の実例

医師と多職種がデータを囲んで透析患者の治療方針を検討するカンファレンスのイラスト 透析
1人の専門医の頭の中を、チームのカンファレンスに置き換える

👨‍⚕️ この記事の執筆者
臨床工学技士(国家資格)/登録年:平成15年(2003年)/登録番号:16,000番台
透析専従20年以上・担当症例1万件以上。北海道内の病院で血液浄化業務に従事。

記事公開日:2026年7月 最終更新日:2026年7月

📌 この記事の信頼性
本記事は、筆者が当事者として体制構築に関わった「透析専門医不在体制」の実務記録に基づいています。個人・施設の特定を避けるため、時期・人数・細部の表現は一部変更しています。

✅ この記事でわかること

  • 透析未経験の医師たちで透析室を回すための「2層設計」の考え方
  • 1人の主治医モデルから「分散管理モデル」へ転換する方法
  • 月1回のデータカンファレンスの具体的な設計(開催日・司会・参加職種)
  • 医師の当番負担を最小化した3つの工夫
  • 協力を求める際に医師側から必ず出る不安と、その答え方

本記事は「透析専門医が退職しても透析室は存続できるのか」シリーズの第1回です。総論(第0回)はこちら 👇

透析室の存続を決めた私たちの前に、最初に立ちはだかったのは体制図の白紙でした。

これまでの体制図はシンプルでした。中心に専門医が1人。回診も処方も指示も緊急対応も、すべての矢印がその1人に向かっていた。その中心が、いなくなる。

残された医師は10人あまり。全員が透析未経験。しかも全員に本来の専門と担当業務がある。この条件で透析室を回す体制図を、ゼロから描き直す必要がありました。

結論として機能したのは、「全員に少しずつ、ただし濃淡をつけて」関わってもらう2層設計と、患者把握の中心を回診からデータカンファレンスに移す分散管理モデルでした。本記事ではその設計を、検討過程で医師側から出た本音の不安も含めて記録します。


1. 出発点:全員未経験・全員兼任という条件

体制を考える前に、私たちが直視した制約条件は次のとおりです。

  • 透析診療の経験を持つ医師は院内にゼロ
  • 協力を求められる医師は10人あまり。全員が自分の専門領域と外来・病棟業務を持つ
  • 医師によって「関われる度合い」に大きな差がある(治療方針の検討まで関われる人から、臨時処方の手伝いが精一杯の人まで)
  • 土曜日の外来透析があり、祝日も患者さんの透析は止められない

この条件下で「全員に平等な当番を割り振る」設計にすれば、確実に破綻します。逆に「意欲のある数人に集中させる」設計にすれば、その数人が燃え尽きた時点で終わります。

必要なのは、関与の濃淡を制度として認める設計でした。

臨床工学技士の視点

体制検討でコメディカルが果たせる最大の貢献は、「医師の業務を分解して見せる」ことだと思います。透析室の1日を、医師の判断が必須の場面と、実はそうでない場面に分けて提示する。「透析室に医師が張り付く必要はなく、判断が必要な場面はここだけです」と示せた瞬間に、医師たちの表情が変わったのを覚えています。恐怖の正体は総量ではなく不明瞭さでした。


2. 医師体制の2層設計──「担当」と「サポート」に分ける

出来上がった体制の骨格は、責任者を頂点に、医師を役割の異なる2つのグループに分けるものでした。

役割関与のイメージ
室長(管理職の医師)体制全体の責任者運営判断・院内調整
透析業務担当グループ(数名)カンファレンス出席、治療方針の検討、定期処方月1回のカンファ+当番
透析業務サポートグループ(数名)臨時処方、臨時の診察、当番の補完依頼ベースの短時間対応

この設計の要点は、サポートグループを「二軍」ではなく正式な役割として体制図に明記したことです。

検討の場で、ある医師が「僕は臨時処方くらいしかできないけど、30分の手伝いならできる」と申し出てくれました。従来の発想なら「それでは戦力にならない」と扱われかねない申し出です。しかし新体制では、まさにその関わり方を制度として位置づけました。臨時処方だけ、書類だけ、当番の穴埋めだけ。小さな貢献の積み重ねが、専門医1人分の穴を面で埋めていく構造です。

実体験より

私の観察した範囲では、「できる範囲でいい」と公式に認められたことで、医師側の協力表明はむしろ増えました。全員にフルコミットを求める体制は、責任の重さから誰も手を挙げられなくなります。関与の下限を思い切って下げることが、結果として関与の総量を増やす。人員不足の組織づくり全般に通じる逆説だと感じています。


3. 主治医モデルから分散管理モデルへ

2層設計と同時に必要だったのが、診療の流れそのものの再設計です。

従来の透析診療は「回診で患者を診る → データを確認する → 処方・指示を出す」という一連の流れを、1人の専門医が完結させるモデルでした。検討の場でも、ある医師から本質的な指摘がありました。本来この流れを一気通貫でやらないと患者を把握できないのではないか、常駐するCEや看護師に頼りきりになるのではないか、という懸念です。

正面から受け止めるべき指摘でした。私たちの答えは、流れを分解して複数人で担う分散管理モデルです。

  • データに基づく患者把握と方針検討 → 月1回のカンファレンスで担当グループ全員が行う
  • 患者データの収集・整理 → CE・看護師・栄養士が日常業務の中で担う
  • カンファレンスの結論のカルテ記載 → 出席した医師が行う
  • 日々の処方・指示 → カルテを見た当番の医師が、カンファの方針に沿って出す

つまり、1人の頭の中で起きていた「把握→判断→指示」を、記録と共有の仕組みでチームに開いたのです。どの医師がカルテを開いても、直近のカンファレンスでの方針が読める。だから当番の医師は、白紙から判断するのではなく、チームの方針に沿って動ける。

ただし、この仕組みには前提条件があります。検討の場でも「核になる医師が必要ではないか」という意見が出ました。実際そのとおりで、方針検討を主導し、情報共有の質を担保する中心的な医師の存在は不可欠でした。分散管理は「中心が不要」という意味ではなく、「中心への依存度を下げる」仕組みだと理解しています。


4. 心臓部となったデータカンファレンスの設計

分散管理モデルの心臓部が、月1回の定期データカンファレンスです。設計の詳細は次のとおりでした。

項目内容設計の意図
開催頻度毎月1回定期検査の結果が毎月出そろうサイクルに同期
開催日時全患者の月初データが出そろう週の平日夕方に固定「いつやるか」を毎回調整しない
司会担当グループの医師が当番制特定の医師への依存と負担集中を防ぐ
出席者透析に関わる医師+CE・看護師・栄養士多職種の視点でデータを解釈する
議題全患者の検査データレビューと治療方針の決定「全員が全患者を知っている」状態をつくる

工夫として効いたと感じるのは、司会の当番制です。司会を務める月は、その医師が全患者のデータに事前に目を通すことになります。つまり当番制そのものが、非専門医の学習の仕組みとして機能しました。数か月も回すと、担当グループの医師たちの間に共通言語が育っていくのが分かりました。

臨床工学技士の視点

カンファレンスの質は、事前準備の資料で決まります。私たちCEと看護師・栄養士は、全患者のデータを一覧化し、前回からの変化と論点が一目で分かる形に整えて臨みました。多忙な医師に生データの海を渡すのは論外です。「この患者はここだけ見てください」まで絞り込むのがコメディカルの仕事で、ここを丁寧にやるほど医師の負担感は下がり、カンファは定着します。


5. 当番負担を最小化した3つの工夫

体制の持続性を左右したのが、日々の当番設計です。負担を最小化するために効いた工夫は3つありました。

工夫1:既存の当番の仕組みに相乗りする

土曜日・祝日の透析対応のために、透析専用の当番表を新設すれば、医師たちに新しい負担を上乗せすることになります。私たちは、院内に既に存在していた別の当番の仕組みを活用し、透析対応をそこに載せる形を検討しました。当番表が1枚増えるか増えないかは、医師の心理的負担として想像以上に大きい。「新しい仕組みを作らずに済む方法はないか」を最初に探すのが定石だと思います。

工夫2:当番の拘束時間を限定する

休日の当番対応は、透析が動いている午前から昼過ぎまでの時間帯に限定しました。「休日が丸ごと潰れる」のと「昼過ぎまでの対応」では、引き受けるハードルがまったく違います。患者さんの透析スケジュール側を調整して、休日の稼働時間そのものを圧縮する発想も併用しました。

工夫3:日常の窓口を集約する

臨時処方や透析中の体調変化への対応は、「その日誰に頼めばいいのか」が現場の迷いになります。私たちは、日中の臨時対応の窓口となる医師をできる限り固定し、看護師が外来まで出向いて依頼する動線まで含めて標準化しました。窓口の医師の負担には配慮が必要ですが、「迷わない導線」の価値はそれを上回りました。


6. 医師から出た不安と、体制側の答え

体制づくりの過程で、医師たちからは率直な不安が出ました。これから同じ検討をする施設では、ほぼ確実に同じ質問が出るはずです。私たちのケースでの問いと答えを記録しておきます。

「トラブルが起きたとき、病院は守ってくれるのか」
→ 病院長が、常識の範囲内で診療にあたる限り病院が責任を持つことを検討の場で明言しました。専門外の領域を引き受ける医師にとって、これは待遇よりも重い前提条件です。トップの明言なしにこの体制は成立しなかったと断言できます。

「本当に医師が常時いなくても大丈夫なのか」
→ 判断が必要な場面を洗い出し、場面ごとに「誰がどう対応するか」を決めて示しました。医師の常駐に代わる安全装置は、対応のセット化と連絡体制です(詳細はシリーズ第3回で解説します)。

「自分は少ししか手伝えないが、それでもいいのか」
→ いい、と体制図で示しました。サポートグループという正式な役割を作ったことが答えです。

実体験より

これらのやりとりを経て感じたのは、医師たちは決して非協力的だったのではない、ということです。専門外の患者を診ることの重さを知っているからこそ、慎重だった。私の経験の範囲では、不安を封じるのではなく、検討の場で全部言葉にしてもらい、一つずつ体制側の答えを用意していくプロセスそのものが、チームの信頼をつくったように思います。


7. よくある質問(FAQ)

Q
医師が何人いれば、この体制は成立しますか?
A

一概には言えませんが、人数よりも構成が重要だと考えています。方針検討を主導できる核となる医師が最低1名、カンファレンスに参加する担当グループが数名、部分的に手伝えるサポート層。この3つが揃うかどうかが、頭数より本質的な条件です。

Q
カンファレンスだけで患者を把握するのは無理がありませんか?
A

カンファレンス「だけ」では無理です。日々のデータ収集と観察はCE・看護師が担い、変化があれば当番医師に随時報告する。カンファレンスは月1回の方針決定の場であり、日常の監視はコメディカルが支える二段構えです。この分担を明確にしないと、カンファは形骸化します。

Q
非専門医の判断で診療の質は保てるのですか?
A

専門医1人の体制と全く同じ質を保証するものではありません。だからこそ、定期検査データに基づく集団での方針決定、対応の標準化、地域の専門施設への相談ラインという安全装置を重ねました。また、判断に迷う症例を抱え込まず外部に相談できる出口を持つことが、質の担保の生命線だと考えています。

Q
体制の立ち上げにどれくらいの期間が必要でしたか?
A

私たちの場合、専門医の退職決定から新体制稼働まで数か月でした。ただしこの期間で間に合ったのは、既存の当番の仕組みへの相乗りなど「ゼロから作らない」選択を重ねたためです。余裕があれば、半年から1年かけて段階的に移行するほうが望ましいと思います。


⚠️ 免責事項
本記事は筆者個人の経験に基づく情報提供であり、特定の施設運営・診療体制を推奨するものではありません。記事中の事例は、個人・施設の特定を避けるため時期・人数・細部を変更しています。体制変更にあたっては、必ず自施設の管理者・医療安全管理部門・関係診療科と協議のうえ、必要に応じて地方厚生局等にご確認ください。治療に関する判断は主治医・担当の医療スタッフにご相談ください。


参考文献

  1. 日本透析医学会統計調査委員会. わが国の慢性透析療法の現況(2024年12月31日現在). 日本透析医学会雑誌. https://docs.jsdt.or.jp/overview/
  2. 厚生労働省. 現行制度の下で実施可能な範囲におけるタスク・シフト/シェアの推進について(医政発0930第16号, 令和3年9月30日). https://www.mhlw.go.jp/
  3. 厚生労働省. 医師の働き方改革について. https://www.mhlw.go.jp/

執筆者プロフィール

臨床工学技士(国家資格)。登録年:平成15年(2003年)、登録番号16,000番台。透析専従20年以上、担当症例1万件以上。北海道内の病院で維持透析・急性期血液浄化に従事。透析専門医不在体制への移行、腹膜透析プログラムの立ち上げ、透析機器の更新計画など、臨床と運営の両面に携わってきました。現場のCE・看護師の判断材料になる一次情報の発信を心がけています。


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