透析液コストの真実|個人用・多人数用装置の差を検証

個人用透析装置と多人数用透析装置のコスト比較イメージ 透析
個人用と多人数用、年間コストの差は数百万円に上る場合があります

👨‍⚕️ 執筆者:臨床工学技士(国家資格)
登録年:平成15年(2003年)|登録番号:16,000番台
透析専従歴20年以上・1万症例以上|北海道内病院勤務

公開日:2026年6月 最終更新日:2026年6月


📌 この記事の信頼性について
本記事は、20年以上の透析臨床経験と自施設での実測データをもとに執筆しています。コスト計算はすべて実際の薬価・使用実績から算出しており、PubMed収載の査読済み論文も参照しています。

✅ この記事でわかること

  • 個人用・多人数用透析装置で透析液コストがどのくらい違うのか、数字で確認する方法
  • 自施設の実データ(使用実績・薬価)を使った患者数別の年間コスト試算
  • キンダリー5号9L・6L・キンダリー5E剤の具体的なコスト比較
  • 臨床工学技士がコスト問題に取り組む際の考え方

はじめに

「多人数用透析装置のほうが安い」——これは透析室では広く知られた話です。しかし、実際にどのくらいコストが違うのかを数字で示せる施設は意外と少ないのではないでしょうか。

「なんとなく安いはず」という思い込みのまま運用を続けることは、経営判断の根拠を曖昧にします。逆に、根拠あるデータを算出して提示できれば、装置選定・コスト改善の議論を具体的に進めることができます。

コストの見える化は、臨床工学技士が果たせる重要な役割のひとつです。本記事では、実際の薬価と自施設の使用実績をもとに3つのパターンを比較した結果をお伝えします。「自施設でも同じように算出してみる」きっかけになれば幸いです。


📄 参照文献
[1] Fauziah K, et al. A randomized cross-over study comparing the performance of HD integra™ central concentrate system versus pre-produced concentrate in hemodialysis. BMC Nephrol. 2017;18(1):123. PMID: 28372556 | DOI: 10.1186/s12882-017-0537-2


1. 今回比較する3つのパターン

今回の比較では、当院で実際に使用・検討した以下3パターンを対象としました。

パターン装置区分透析液特徴
A個人用透析装置キンダリー5号 9L個人機でのOHDF
B個人用透析装置キンダリー5号 6L個人機のHD、オフラインHDF
C多人数用透析装置キンダリー5E剤(粉末・セントラル供給)集中供給型

コストの構成要素

  • 個人用(A・B):透析液(袋製品)+生理食塩液(回路プライミングに使用)
  • 多人数用(C):透析液(粉末剤を溶解)+透析液プライミング分のみ(生食不要)

オンラインプライミング対応の多人数用装置では、生理食塩液の代わりに透析液でプライミングを行うため、生食コストがゼロになります。これがコスト差の大きな要因のひとつです。

なお、近年では個人用透析装置でも透析液プライミングに対応した機種が登場しています。該当機種を導入している施設では生理食塩液コスト(本試算では224円/症例)が削減できるため、パターンAとBのコストはさらに低くなります。ただし、多人数用装置との差は依然として大きく、コスト比較の構図は変わりません。


2. 1症例あたりのコスト比較

以下は、実際の薬価をもとに算出した1症例(1透析)あたりのコストです。

項目パターンA(9L袋)パターンB(6L袋)パターンC(多人数用粉末)
透析液コスト3,327円2,577円904円
生理食塩液コスト224円224円0円
プライミング分透析液10円
合計(1症例)3,551円2,801円914円

⚠️ ポイント
パターンCの透析液コストには、当院の使用実績(粉末1セットあたり約2症例)が反映されています。この数値は当院の施設条件・治療構成における実測値であり、他施設では異なります。

パターンC(多人数用)の粉末消費量について

多人数用装置では粉末透析剤を溶解して透析液を生成します。当院の実績では1セットあたり概ね2症例前後をカバーしています。

ただし、この数値は以下の要因によって施設ごとに大きく異なります。

  • 透析時間:標準4時間のほか、5時間・6時間の長時間透析が混在する場合は消費量が増加
  • 治療種別:IHDFやオンラインHDFは補充液分だけ透析液消費が増える
  • 始業時の廃棄量:多人数用装置では透析液濃度が安定するまでの間、一定量を廃棄する必要があり、これが1日の固定コストとなる
  • 患者数(スケール):始業廃棄などの固定コストは患者数が多いほど1症例あたりに薄まるため、患者数が多い施設ほどコスト優位性が高くなる傾向がある

導入前は理論値だけでなく、自施設の透析時間構成・治療種別・1日患者数をもとにメーカーとシミュレーションを行うことを強く推奨します。


3. 患者数別・年間コスト試算

計算条件

  • 1患者あたりの年間透析回数:156回(週3回 × 52週)
  • 患者数:9名・12名・15名・18名・21名の5段階で試算

年間コスト比較表

患者数パターンA(万円)パターンB(万円)パターンC(万円)A-C差(万円)B-C差(万円)
9名498.6393.3128.3370.2264.9
12名664.7524.3171.1493.6353.2
15名830.9655.4213.9617.1441.6
18名997.1786.5256.7740.5529.9
21名1,163.3917.6299.4863.9618.2

💡 試算結果のまとめ
患者21名規模の施設では、
・パターンAからCへ変更:年間約864万円の削減効果
・パターンBからCへ変更:年間約618万円の削減効果
・パターンAからBへ変更するだけでも:年間約246万円の削減効果

患者数が少ない施設でも効果は大きい

患者9名の小規模施設でも、AからCへの変更で年間約370万円の差が生じます。多人数用装置の導入コストや維持管理費を加味しても、規模によっては数年で元が取れる計算になる場合があります。

 臨床工学技士の実体験
当院では、個人用装置から多人数用装置へ移行する検討を行いました。単純な透析液コストの差は計算上明確ですが、実際には装置のイニシャルコスト・配管工事・水処理設備のランニングコスト・スタッフの習熟コストなども加算されます。観察した範囲では、透析液コストの削減額が最も試算しやすく、導入判断の大きな根拠になる傾向があります。


4. 多人数用装置の安全性・品質エビデンス

「多人数用装置(セントラル供給型)は個人用と比べて品質面で劣るのでは?」という懸念を持つ施設もあるかもしれません。この点についてPubMedに収載されたエビデンスを確認します。

主要文献:Fauziah et al. 2017(RCT)

項目内容
論文タイトルA randomized cross-over study comparing the performance of HD integra™ central concentrate system versus pre-produced concentrate in hemodialysis
著者Fauziah K, et al.
雑誌BMC Nephrology
出版年2017年
研究デザインランダム化クロスオーバー試験(RCT)
PMID28372556
DOI10.1186/s12882-017-0537-2

主要結果:

この研究では、セントラル供給型(CCS)と既製品濃縮液(PPC)を16台の透析機で8週間比較しました。

  • 微生物・エンドトキシン:48回のモニタリングすべてでアクションリミット以下
  • 透析液の組成(Na・Cl・重炭酸濃度):両群の偏差は±5%以内
  • 有害事象:患者から報告なし
  • 結論:「現代のCCSは細菌学的に安全であり、既製品と統計的に同等のパフォーマンスを示す」

⚠️ エビデンスの限界
この研究はマレーシアの1施設での比較であり、症例数(16台)は限定的です。日本国内の多人数用装置の品質管理基準(日本透析医学会・水処理ガイドライン)は独自に設定されており、日本の施設では国内の基準に従った運用が求められます。

日本における多人数用透析液の品質管理

日本透析医学会は「透析液水質基準」を定めており、透析液の生菌数・エンドトキシン濃度には厳格な基準があります。多人数用装置であっても個人用装置であっても、この基準を満たすことが求められます。

  • 透析用液の生菌数:<100 CFU/mL(標準透析液)、<0.1 CFU/mL(超純粋透析液)
  • エンドトキシン濃度:<0.050 EU/mL(標準)、<0.001 EU/mL(超純粋)

多人数用装置は適切な水処理・管理を行えば超純粋透析液の供給も可能であり、品質面での劣後は認められていません。


5. 臨床工学技士の視点

💬 「安いのはわかってる」では不十分

多人数用装置のほうがコストが低いことは、透析に関わるスタッフなら誰もが知っています。しかし「なんとなく安い」という認識と「年間○○円の差がある」という根拠は、全く異なる重みを持ちます。

今回の試算を通じて感じるのは、臨床工学技士がコストの数値化に積極的に関わることの重要性です。薬価・使用実績・年間症例数——これらは現場にいるCEが最もよく把握できるデータです。それを整理して提示することで、装置選定や経営判断の議論を具体的に動かすことができます。

「思い込みではなく根拠あるデータで語る」——これはCEとして医療現場に貢献できる実践的なアプローチの一つだと考えています。

👨‍⚕️ 試算を行う上での注意点

今回の試算は透析液・生理食塩液の消耗品コストのみを対象としています。実際の導入判断では、消耗品コストの削減幅と以下のコストを比較する必要があります。

追加でかかるコスト:
・多人数用装置の初期導入費用(装置本体・配管・水処理設備)
・スタッフ教育・操作習熟コスト
・メンテナンス・定期点検費用

副次的な削減効果:
・生理食塩液の管理・廃棄コストの削減
・廃液・廃棄袋の減少による環境負荷軽減

観察した範囲では、患者数が多いほど消耗品コストの削減幅が大きく、初期投資の回収期間が短くなる傾向があります。各施設の建物構造・配管状況によって工事費が大きく変動するため、消耗品コストの試算をベースに個別のシミュレーションを行うことをお勧めします。

個人用装置でのコスト最適化:使用用途に応じた選択が鍵

パターンAの9LとパターンBの6Lは、容量だけでなく使用用途が異なります

  • キンダリー5号9L(パターンA):オンラインHDF専用。補充液として透析液を大量に使用するため、大容量が必要。
  • キンダリー5号6L(パターンB):HD・オフラインHDFに使用。

「9Lを6Lに変更してコスト削減」という単純な話ではありません。各治療に必要な製品を正しく把握し、施設内の治療種別構成に合った調達をすることがコスト管理の第一歩です。

たとえば、オンラインHDFをほとんど行っていない施設が9Lを主力で使い続けていれば、6Lへの切り替えだけでコストを下げられる余地があります。逆にオンラインHDF比率が高い施設では9Lの使用は必然であり、その場合は多人数用装置への移行が最大の改善策になります。

このように、自施設の治療構成を把握した上でどの製品が適切かを判断すること自体が、CEとしてのコスト管理業務といえます。

パターンAとBの1症例あたりのコスト差は750円。施設のオンラインHDF比率次第では:

  • 患者21名規模:年間最大約246万円の差
  • 患者15名規模:年間最大約175万円の差

HDとオンラインHDFでは補液回路や濾過加算などに違いも発生します。「何を、どの治療に、どの容量を使っているか」——この把握なしに透析液コストの最適化は語れません。


6. よくある質問(FAQ)

Q
多人数用装置に変更すると透析液の品質は下がりますか?
A

適切な水処理設備と管理を行えば、個人用と同等以上の水質が確保できます。BMC Nephrologyに掲載されたRCT(Fauziah 2017)でも、細菌・エンドトキシン・透析液組成のすべてで個人用と同等の品質が確認されています。日本透析医学会の水質基準に従った定期検査が前提です。

Q
キンダリー5号9Lと6Lは何が違うのですか?
A

9LはオンラインHDFで補充液として使用するために大容量が必要な製品です。6Lは通常透析(HD)やIHDFに適しています。治療種別に応じて使い分けるものであり、単純に「6Lに統一してコスト削減」という性質のものではありません。なお、透析効率(Kt/Vなど)は透析液の総容量ではなく流量(mL/min)によって決まります。袋を6Lに変えても流量設定が同じであれば透析効率は変わりません。コスト最適化の議論と透析効率の議論は別物として整理することが重要です。

Q
粉末透析剤(多人数用)は1セットで何回分ですか?
A

施設によって大きく異なります。透析時間・治療種別(IHD/IHDF/HDF)・1日の患者数・始業時の廃棄量など、複数の要因が絡み合うためです。当院では概ね1セットあたり2症例前後ですが、長時間透析が多い施設や患者数が少ない施設では消費量が増える傾向があります。導入前に自施設の条件をメーカーに伝え、個別にシミュレーションすることをお勧めします。


7. まとめ

「多人数用は安い」は正しい。しかし、どのくらい安いのかを数字で示せるかどうかが重要です。

今回の試算では、同じ患者数・年間症例数でも、透析液の選択だけで年間数百万円規模のコスト差が生じることが確認できました。この数字は「感覚」ではなく、薬価と使用実績という現場で取得できるデータから算出できるものです。

自施設のデータを使って同様の試算を行うことは、それほど難しくありません。必要なのは以下の3つだけです。

  1. 使用している透析液の薬価(購入単価)
  2. 1症例あたりの消費量(使用実績から算出)
  3. 年間症例数(患者数 × 年間透析回数)

これを整理して数字にすること——それが臨床工学技士として経営や装置選定の議論に貢献できる、根拠あるアプローチだと考えます。


⚠️ 免責事項
本記事に記載されたコスト試算は当院の実使用データに基づくものであり、他施設への直接適用を保証するものではありません。薬価・装置コストは購入条件・契約内容によって異なります。透析処方の変更(透析液量の変更を含む)は必ず主治医・担当臨床工学技士の指示のもとで行ってください。本記事は医療行為の指示・推奨を目的とするものではありません。


参考文献

  1. Fauziah K, Go KW, Ghazali A, Zaki M, Lim TO. A randomized cross-over study comparing the performance of HD integra™ central concentrate system versus pre-produced concentrate in hemodialysis. BMC Nephrol.2017;18(1):123. PMID: 28372556. DOI: 10.1186/s12882-017-0537-2
  2. 日本透析医学会.2016年版 透析液水質基準.https://www.jsdt.or.jp/tools/file/download.cgi/1709/日本透析医学会2016年版透析液水質基準.pdf
  3. 日本透析医学会. わが国の慢性透析療法の現況(2022年12月31日現在). 2023. https://www.jsdt.or.jp/

執筆者プロフィール

項目内容
職種臨床工学技士(国家資格)
登録年平成15年(2003年)
登録番号16,000番台
専門透析療法・急性期血液浄化
経験透析専従20年以上・1万症例以上
勤務北海道内病院

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