👨⚕️ 著者:臨床工学技士(国家資格)|登録:平成15年(2003年)|登録番号16,000番台|透析専従20年以上・1万症例以上|北海道内病院 透析室・急性期血液浄化担当
記事公開日:2026年7月 最終更新日:2026年7月
📌 本記事の信頼性について 本記事は臨床工学技士としての20年以上の臨床経験と、査読済み論文の知見をもとに作成しています。ただし、記載する治療経過は自施設で経験した個別の症例に基づくものであり、全ての患者に同様の経過が当てはまるわけではありません。抗凝固剤の選択・変更は必ず主治医の判断のもとで行われるものです。
✅ この記事でわかること
- レオカーナ(吸着型血液浄化器)治療で血圧が下がる仕組みの概要
- 抗凝固剤にヘパリンを使用した場合とフサン(ナファモスタットメシル酸塩)を使用した場合の、当院で観察した血圧経過の違い
- 文献から見る、両者の違いが生じると考えられる理由
- 治療にあたって施設として注意している点
閉塞性動脈硬化症(ASO)による難治性潰瘍に対する吸着型血液浄化器「レオカーナ」は、保険適用から数年が経ち、私の勤務先でも導入症例が増えてきました。一方で、治療中の血圧低下は現場で最も気を遣う合併症のひとつです。
今回は、同一の患者さんに対して1回目は抗凝固剤にヘパリン、2回目は出血傾向への対応としてフサン(ナファモスタットメシル酸塩)を使用した際の経過を比較します。抗凝固剤の変更自体は血圧対策ではなく止血目的でしたが、結果として血圧経過にも違いが見られたため、観察した範囲での違いと、その背景にあると考えられる機序を文献とあわせてまとめます。
📄 参照論文(本文中で紹介)
- Koga N, et al. ASAIO J. 1993;39(3):M288-91.(PMID: 8268545)
- Kojima S, et al. Hypertens Res. 2001;24(5):595-8. DOI: 10.1291/hypres.24.595
- Kojima S. Ther Apher. 2001;5(4):232-8. DOI: 10.1046/j.1526-0968.2001.00344.x
1. レオカーナ治療で血圧が下がる仕組み
レオカーナはデキストラン硫酸とL-トリプトファンを固定化したセルロースビーズに血液を直接灌流させ、LDLコレステロールとフィブリノゲンを吸着除去する機器です。この吸着体表面(陰性荷電)に血液が接触すると、血液凝固の内因系(接触相)が活性化され、ブラジキニンという血管拡張物質が産生されます。
ブラジキニンは通常、ACE(キニナーゼⅡ)によって速やかに分解されますが、
- ACE阻害薬を服用している場合はブラジキニンの分解が抑制され、血中濃度が上昇しやすい
- ACE阻害薬を服用していなくても、ブラジキニン産生量そのものが多ければ血圧低下は起こり得る
という2つの経路があると考えられています。同種の吸着カラム(デキストラン硫酸セルロースカラム)を用いるLDLアフェレーシスの領域では、この機序が以前から報告されています(Kojima, Ther Apher 2001)DOI: 10.1046/j.1526-0968.2001.00344.x。

当院では、体外循環開始から30分間は5分間隔で血圧測定を行っています。その後は循環動態や症状に応じて10〜15分間隔に延長しています。
2. 症例1:抗凝固剤にヘパリンを使用した初回治療
初回治療は添付文書に準じ、抗凝固剤にヘパリンを使用しました(今回は体外循環開始時3,000単位ボーラス、以後750単位/時で持続投与)。
| 経過時間 | 収縮期血圧(sBP) | 症状・対応 |
|---|---|---|
| 開始時 | 140台 | — |
| 5分 | 130台 | — |
| 10分 | 120台 | — |
| 15分 | 110台 | — |
| 20分前後 | 100台 | 嘔気出現。下肢挙上、生食100mL投与 |
| 20分以降 | 120台 | 血圧回復、以後ゆるやかに上昇 |
| 治療終了時 | 130台 | 症状消失 |
開始から5分ごとに収縮期血圧が約10mmHgずつ低下し、開始20分ほどで100台まで低下したところで嘔気が出現しました。下肢挙上と生理食塩液100mLの投与で120台まで回復し、その後は緩やかな上昇傾向となって症状も改善、最終的に130台で治療を終了しました。

臨床工学技士の視点
5分ごとにきれいに10mmHgずつ低下していく経過は、ブラジキニン産生が体外循環開始とともに一定のペースで進んでいることを示唆しているように感じました。この患者さんではACE阻害薬は服用しておらず、いわゆる「ACE阻害薬併用禁忌」のケースには該当しませんが、それでも症状を伴う血圧低下が生じたことから、ACE阻害薬非服用でもブラジキニン反応自体は起こり得るという点を改めて意識させられた症例でした。
3. 症例2:抗凝固剤をフサンに変更した2回目治療
1回目の治療終了後、穿刺針抜針時の止血に10分以上を要しました。出血傾向ありと判断し、2回目の治療では主治医の判断のもと抗凝固剤をフサン(ナファモスタットメシル酸塩、体外循環開始時より30〜40mg/hrで持続投与)に変更しました。今回の変更は血圧低下対策としてではなく、出血傾向への対応として行ったものですが、結果として血圧経過にも違いが見られました。なお、変更後の抜針時の止血時間は5〜6分に短縮し、出血傾向への対応としても効果が確認できました。
| 経過時間 | 収縮期血圧(sBP) | 症状・対応 |
|---|---|---|
| 開始時 | 140台 | — |
| 20分前後 | 120台 | 気分不快なし |
| 治療終了時 | 160台 | 足の温感あり |
| 抜針後 | — | 止血時間5〜6分(1回目は10分以上) |
開始時の血圧は1回目と同様140台でしたが、低下のペースは明らかに緩やかで、開始20分の時点でも120台にとどまり、気分不快などの自覚症状は見られませんでした。その後は特に問題なく経過し、最終的には160台まで回復して治療を終了しました。
また1回目には見られなかった変化として、足の温感を訴えられたのが印象的でした。末梢循環の変化を反映している可能性はありますが、単回の経過からその機序を断定することはできません。

臨床工学技士の視点
同じ患者さんで抗凝固剤だけを変えてこれだけ経過が異なったことは、現場の実感として非常に印象深いものでした。患者さんご本人も、効果を実感できたことと、気分不快の症状が出なかったことの両方から満足そうな様子だったのが、今回とても印象に残っています。ただし、これはあくまで1例2回の観察に基づく個人的な経験であり、フサンに変更すれば必ず血圧が安定するというわけではない点には注意が必要です。
4. 文献から見る、ヘパリンとフサンで経過が異なる理由
同様の現象は、デキストラン硫酸セルロースカラムを用いるLDLアフェレーシスの領域で以前から報告されています。
| 文献 | 概要 |
|---|---|
| Koga N, et al. ASAIO J.1993;39(3):M288-91.(PMID: 8268545) | ACE阻害薬服用中の患者にLDLアフェレーシスを行った際、ヘパリンを抗凝固剤として使用するとブラジキニン濃度が大きく上昇しアナフィラキシー様反応が見られたが、フサン(Futhan)を抗凝固剤として使用した場合はこの反応が見られなかったと報告されている。 |
| Kojima S, et al. Hypertens Res. 2001;24(5):595-8.(DOI: 10.1291/hypres.24.595) | ACE阻害薬服用中の患者で、LDLアフェレーシス中に流涙・霧視を伴う血圧低下が生じたが、抗凝固剤をヘパリンからフサンに変更したところ血圧低下が消失したとする症例報告。 |
| Kojima S. Ther Apher.2001;5(4):232-8.(DOI: 10.1046/j.1526-0968.2001.00344.x) | デキストラン硫酸セルロースカラムが血液凝固の接触相(第XII因子・高分子キニノーゲン・プレカリクレイン)を活性化し、ブラジキニンを産生する機序についての総説。 |
これらはいずれもLDLアフェレーシス(血漿灌流法)における報告であり、レオカーナ(直接血液灌流法)そのものを対象とした比較試験ではありませんが、「陰性荷電を持つデキストラン硫酸系吸着体が血液(または血漿)と接触することでブラジキニンが産生される」という基本的な機序は共通していると考えられます。
ヘパリンは接触相の活性化そのものを抑制する作用を持たないのに対し、フサンはセリンプロテアーゼ阻害薬として第XIIa因子やカリクレインの活性を阻害する作用を持つとされ、これが接触相の活性化、ひいてはブラジキニン産生を抑える方向に働く可能性が指摘されています。今回観察された血圧経過の違いも、この機序と矛盾しない結果だったと言えそうです。
5. 臨床工学技士が考える注意点
- ACE阻害薬非服用でも油断しない:症例1のようにACE阻害薬を服用していない患者さんでも、症状を伴う血圧低下は起こり得ます。
- 開始直後からの経時的な血圧測定が重要:ブラジキニンによる血圧低下は治療開始直後から進行することがあるため、循環開始から一定時間はこまめな血圧測定が欠かせません。
- 抗凝固剤の変更は医師の判断が前提:フサンへの変更は血圧低下対策として選択肢になり得ますが、出血リスクの評価や診療録への記載など、医師の判断と指示のもとで行う必要があります。
- 効果が出ても油断しない:フサン使用時に血圧が安定していたとしても、毎回同じ経過をたどるとは限らないため、油断せず観察を継続することが大切です。
6. よくある質問
- Qどのような場合に抗凝固剤の変更を検討しますか?
- A
今回のケースでは、穿刺針抜針後の止血に10分以上を要し、出血傾向ありと判断したことが変更のきっかけでした。フサンへの変更後は止血時間が5〜6分に短縮し、出血傾向への対応という点では効果が確認できました。抗凝固剤の変更は血圧低下対策として行われることもありますが、出血傾向など他の要因で検討されることもあります。いずれも主治医の判断のもとで行われます。
- Qフサンを使えば血圧は下がらなくなりますか?
- A
今回observed(観察した)範囲では血圧低下が緩やかでしたが、必ず血圧が安定するとは限りません。個人差があり、フサンを使用していても血圧低下が生じることはあります。
- Q抗凝固剤は自分で選べますか?
- A
いいえ。抗凝固剤の種類・投与量は、出血リスクや併存疾患などを踏まえて主治医が判断します。
- Q足の温感は治療効果のサインですか
- A
末梢循環の変化を示唆する可能性はありますが、単回の経過だけで治療効果と結びつけることはできません。潰瘍の改善は複数回の治療経過や創部の評価を通じて総合的に判断されます。
⚠️ 免責事項
本記事は、筆者が臨床工学技士として経験した内容および公表された文献情報をもとに作成した一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の治療方針を推奨するものではありません。治療の適応や抗凝固剤の選択については、必ず主治医・担当の臨床工学技士にご相談ください。
参考文献
- Koga N, Nagano T, Sato T, Kagasawa K. Anaphylactoid reactions and bradykinin generation in patients treated with LDL-apheresis and an ACE inhibitor. ASAIO J. 1993;39(3):M288-91. PMID: 8268545
- Kojima S, Shida M, Takano H, et al. Effects of losartan on blood pressure and humoral factors in a patient who suffered from anaphylactoid reactions when treated with ACE inhibitors during LDL apheresis. Hypertens Res.2001;24(5):595-8. DOI: 10.1291/hypres.24.595
- Kojima S. Low-density lipoprotein apheresis and changes in plasma components. Ther Apher. 2001;5(4):232-8. DOI: 10.1046/j.1526-0968.2001.00344.x
本記事はPubMed(米国国立医学図書館)に収載された文献情報を参照して作成しています。
執筆者プロフィール
臨床工学技士(国家資格)。平成15年(2003年)登録、登録番号16,000番台。透析専従20年以上、症例数1万例以上。北海道内の病院で透析室・急性期血液浄化業務に従事。当ブログでは臨床現場での経験と最新知見をもとに、透析・血液浄化療法に関する情報を発信しています。



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