【重要】免責事項
本記事は2026年2月時点の厚生労働省通知および施設基準に基づき、臨床工学技士の視点で解説したものです。
診療報酬の解釈は、管轄の地方厚生局や審査機関により細部が異なる場合があります。
最終的な届出や算定の可否については、必ず管轄の地方厚生局へご確認の上、貴院の責任においてご判断ください。
⚠️【補足・2026年3月更新】読者様よりご指摘をいただきました。厚労省の個別改定項目資料(短冊資料)の記載を精査したところ、経過措置が明示されているのは「イ(情報伝達訓練)」であると解釈するのが適切です。「ア(マニュアル作成)」については、同資料上での経過措置の記載が確認できないため、原則として6月1日の算定開始時点までに対応が必要と考えられます。 今後公表される告示・通知・疑義解釈で取り扱いが明確化される可能性があります。管轄の地方厚生局へご確認ください。
はじめに:「ウチは無理」と諦めるのはまだ早い
「今度の改定で新しくできる『20点』の加算、ウチは腹膜透析(PD)も移植もやってないけど、算定できるのかな…?」
2026年の診療報酬改定、資料が膨大で読み解くのが大変ですよね。透析室に20年以上勤務している現役臨床工学技士(CE)の私も、改定のたびに厚労省の通知とにらめっこしては頭を抱えています。
特に今回新設される「腎代替療法診療体制充実加算」(20点)。名前だけ見ると「充実した設備がある大病院しか無理」と思われがちですが、実は中小規模のクリニックでも算定のチャンスがあります。
結論から言います。腹膜透析や移植の実績が「現時点でゼロ」でも、2026年6月から算定は可能です。
ただし、それには「経過措置(けいかそち)」というルールを正しく理解し、期限までにやるべき「宿題」をこなすことが条件です。
この記事では、現場の技士長や事務長向けに、実績なしでも加算をスタートするための条件と、2028年5月末までの具体的なロードマップを解説します。経営のため、そして何より患者さんの選択肢を守るために、一緒に確認していきましょう。
まず押さえたい「今回の改定の全体像」
この加算を理解するには、2026年改定の点数構造の変化を知ることが不可欠です。
今回の改定では、慢性維持透析の所定点数(J038)が一律20点引き下げられました。しかし同時に、「腎代替療法診療体制充実加算」(20点)が新設されています。
つまり、この加算を算定できれば「±0」で従来の点数水準が維持される構造です。逆に言えば、この加算を算定できないと、毎回の透析で20点(200円)の純減が確定します。
1日50名の透析室を例にとると:
- 1日あたりの減収:50名 × 200円 = 10,000円
- 年間(週6日・50週換算)の減収:約300万円規模
「20点」という数字は小さく見えますが、施設全体への影響は決して小さくありません。
2026年改定の目玉「腎代替療法診療体制充実加算」とは?
国がこの加算で求めているのは、ズバリSDM(Shared Decision Making:共同意思決定)の推進です。
これまでの日本の透析医療は、どうしても「血液透析(HD)一択」になりがちでした。しかし患者さんのライフスタイルや希望に合わせて、腹膜透析(PD)や腎移植という選択肢も提示できる体制を作ってほしい——それがこの加算のメッセージです。
患者さんにとってのメリットは?

技士さん、新しい決まりができると、私たちの治療費も変わるんですか? なんだか難しそう…

窓口負担はほとんど変わりません。この新しい仕組みは、「もし将来、今の治療が合わなくなった」というときに、すぐにPDや移植の専門医につないでもらえる体制を病院が整えることを国が評価するものなんですよ。患者さんが「選べる」環境を守るための制度です。
自院ですべて完結できなくても、「専門施設への太いパイプ」を持っていれば評価される——これがこの加算の本質です。
施設基準の全体像:4つの要件を正確に理解する
ここが記事で最も重要なパートです。「経過措置があるから大丈夫」と思い込む前に、要件の全体像を正確に把握しておきましょう。
【施設基準の構造】
- (1) ア・イ:災害対策(マニュアル整備+情報伝達訓練参加)← マニュアル整備は経過措置なし・即時必須 訓練参加は経過措置あり(2027年5月末)
- (2) ア:腎代替療法の情報提供 ← 経過措置なし・即時必須
- (2) イ又はウ:PD管理実績 or 移植実績 ← 経過措置あり(2028年5月末)
- (3) シャント連携体制 ← 必須・経過措置なし(自院対応施設を除く)
- (4) 緩和ケア体制 ← 努力義務・経過措置なし
順番に解説します。
(1) ア・イ:災害対策の体制整備【(イ)は経過措置あり・2027年5月末まで】
施設基準(1)では、以下の2つが求められています。
- ア:ハザードマップにより当該保険医療機関の災害発生時のリスクを把握した上で、災害対応に係るマニュアルを作成していること←経過措置なし
- イ:日本透析医会、日本透析医会支部または都道府県等による災害時の情報伝達訓練に年に1回以上参加していること←2027年5月末までの経過措置あり
この要件にはそれぞれ期日が異なりますので注意が必要です。
(2) ア:腎代替療法の情報提供【経過措置なし・即時対応必須】
関係学会の作成した資料に基づき、患者ごとの適応に応じて必要な説明を行っていること。なお、説明は導入期に限らず、患者の病状や求めに応じて繰り返し行うこと。
これは経過措置がありません。6月から算定を開始するなら、6月1日時点で実施できている必要があります。
【実務ポイント】アの要件を満たすために今すぐやること
- 日本透析医学会・日本移植学会等が公開している「腎代替療法選択ガイド」等の資料を入手する
- 外来透析患者への定期的な情報提供の仕組みを作る(年1回以上の説明実施と記録が当面の目安ですが、患者の状態変化や希望に応じた追加説明の記録が重要です)
- 説明した記録を診療録に残す(「いつ・誰に・何を説明したか」が証跡になる)
(2) イ または ウ:実績要件【経過措置あり・2028年5月末まで】
ここが「実績ゼロでも算定できる」根拠となる部分です。イ・ウのどちらか一方を満たせばOKです。
イ:腹膜透析(PD)の管理実績
「C102 在宅自己腹膜灌流指導管理料」を(施設全体で)過去1年間で24回以上算定していること。
ウ:腎移植の実績
腎移植について、患者の求めに適切に相談に応じており、かつ、腎移植に向けた手続きを行った患者(新規登録者、先行的腎移植実施者、移植により透析離脱した患者等)が前年に2人以上いること。

パパ、それって夏休みの宿題と同じだね! 最初に遊んで、あとで泣くパターン?

うっ、耳が痛い…! でも鋭い。先に「ご褒美(点数)」をもらう代わりに、期限までに絶対宿題を終わらせないといけない。しかも夏休みの宿題と違って、サボった代償は施設の収益に直結するんだ。
ここが重要:「紹介するだけ」では要件を満たさない
重要なポイントとして改めて強調しますが、イは「自院でPD患者を管理してC102を年24回以上算定すること」、ウは「移植手続きを踏んだ患者が年2人以上いること」という、具体的な数値基準です。
「PD施設を紹介した」「移植の説明をした」だけでは足りません。この点が実務上、最も誤解されやすいポイントです。
【イとウ、どちらを目指すべきか?】
| イ(PD管理実績) | ウ(移植実績) | |
|---|---|---|
| 要件 | C102を年24回以上算定 | 移植手続き患者が前年に2人以上 |
| 自院で必要なこと | PD患者を自院で継続管理 | 移植医療機関との連携と支援 |
| 中小クリニックの現実 | PD患者を2人以上持てば達成しやすい | 年2人のハードルは地域差あり |
| 難易度 | ★★★☆(PD導入体制が前提) | ★★★☆(地域連携の深さが問われる) |
施設規模・地域の医療資源によって最適解は異なります。地域のPD専門施設・腎移植認定施設を早めにリストアップし、どちらのルートが現実的か院長と相談することをお勧めします。
(3) シャントトラブルへの連携体制【必須・経過措置なし】
透析シャント閉塞等の治療を自院で行う場合を除き、他の保険医療機関と事前に連携し、診療情報の提供を行う体制が整備されていること。
これは(2)のイ・ウとは完全に独立した必須要件であり、経過措置はありません。シャントPTAや外科的修復を自院で行っていない施設は、連携先医療機関との取り決め(診療情報提供体制)を6月1日算定開始時点で文書化しておく必要があります。
すでに連携している場合でも、「事前の取り決めが書面化されているか」を必ず確認しましょう。
(4) 緩和ケア体制【努力義務・経過措置なし】
緩和ケアを必要とする患者に対し、適切な治療・ケアを提供できる体制が整備されていることが望ましい。(「腎不全患者のための緩和ケアガイダンス」を参考にすること)
「望ましい」という表現の通り、これは算定の必須条件ではなく努力義務です。ただし経過措置もないため、できる範囲で体制を整えておくことが望まれます。「腎不全患者のための緩和ケアガイダンス」は日本透析医学会のサイトから入手できます。
絶対に守るべき「期限と宿題」の全体像
ここまでの内容を、「いつまでに・何をするか」という形で整理します。
| 期限 | 要件 | 具体的なアクション | 経過措置 |
|---|---|---|---|
| 2026年6月1日〜 | 1)ア:災害対策の体制整備 | ・ハザードマップの確認・記録 ・災害対策マニュアル作成・更新 | なし(即時対応) |
| 2026年6月1日〜 | (2)ア:腎代替療法の情報提供 | ・学会資料の入手・整備 ・説明の仕組みづくり・記録 | なし(即時対応) |
| 2026年6月1日〜 | (3)シャント連携体制(自院対応施設を除く) | ・連携先医療機関との書面による取り決め | なし(即時対応) |
| 2027年5月末まで | (1)イ:災害対策の体制整備 | ・情報伝達訓練の実施と記録 | あり |
| 2028年5月末まで | (2)イ又はウの実績構築 | イ:自院でPD患者を管理し、C102を年24回以上算定できる体制整備 ウ:移植手続き患者(新規登録・先行的移植・移植離脱)が年2人以上いる連携体制 | あり |
| 随時(努力義務) | (4)緩和ケア体制 | ・「腎不全患者のための緩和ケアガイダンス」の参照・体制確認 | なし(努力義務) |
現場CEが今すぐやるべき「アクションリスト」
STEP 1|院長・事務長への報告(今すぐ)
【報告用メモ案】
件名:2026年改定「腎代替療法診療体制充実加算」(20点)の算定について
今回の改定で慢性維持透析の基本点数が一律20点引き下げられますが、「腎代替療法診療体制充実加算」(20点)の新設により、算定できれば従来水準を維持できます。経過措置を活用することで、当院でも6月から算定可能です(PD・移植の実績ゼロでも対応可)。
ただし、以下の対応が必須です。
- 6月1日から:災害対策マニュアルの整備
- 6月1日から:患者への腎代替療法説明の記録体制を整備(経過措置なし)
- 6月1日から:シャントトラブル対応の連携体制を書面化(経過措置なし・自院対応施設を除く)
- 2027年5月末まで:情報伝達訓練への参加
- 2028年5月末まで:イ(PD管理・C102年24回以上)またはウ(移植手続き患者年2人以上)のどちらかの実績構築
どちらのルート(PD・移植)を目指すか、地域の医療資源を踏まえてご相談したく存じます。CE側でマニュアル作成等は進めます。届出の手配を事務部門でお願いできますでしょうか。
⚠️ なお、6月1日算定開始には5月中の届出完了が必要です。届出書類の準備は5月上旬を目処にお願いします。
STEP 2|「(1)ア 災害対策マニュアル」「(2)アの情報提供体制」を今すぐ整備(6月1日必着)
経過措置がない要件です。6月の算定開始に向けて最優先で動く必要があります。
- ハザードマップの確認と記録:洪水・停電・断水リスクの施設ごとの把握
- 透析室特有の災害対策マニュアル:装置・水・電源・通信の確保手順
- 学会資料の入手:日本透析医学会・日本移植学会等が公開している腎代替療法選択のパンフレット・ガイドを揃える
- 説明の流れを決める:誰が・いつ・何を使って説明するかのフローを作成する
- 記録様式を作る:「いつ・誰に・何を説明したか」を診療録に残せる体制(専用の記録フォームがあると便利)
日本透析医学会・日本透析医会のガイドラインをベースに作成するのが効率的です。
(出典:日本透析医会 提 言 災害時に透析医療を継続するために )
(出典:日本透析医会 透析患者の災害対策)
STEP 3|「(1)イ 情報伝達訓練への参加と記録」(〜2027年5月末)
情報伝達訓練への参加と記録が必要となります。
- 情報伝達訓練への参加と記録:日本透析医会・支部・都道府県等主催の訓練に年1回以上参加
- 地域の透析医療機関ネットワークとの連携協定
こちらは日本透析医会の災害時情報ネットワークです→(リンク:日本透析医会 災害時ネットワーク)。当院でも北海道胆振東部地震や東日本大震災時に利用し、被災患者さんの受け入れを行なった経験があります。
STEP 4|イ・ウのどちらを目指すか戦略を決める(〜2028年5月末)
「とりあえず様子を見る」は危険です。2028年5月末は思ったより早く来ます。いま動き始めて「2年かけて実績を積む」という発想が必要です。
イ(PDルート)を選ぶ場合:
- 地域のPD専門施設と連携協定を結び、PD患者の逆紹介を受ける
- 自院でのPD外来を立ち上げる、またはPD患者の管理を引き受ける
- C102を年24回以上算定するには、PD患者を自院で管理し、月1回のC102を2人以上に算定し続けることが最低ライン
ウ(移植ルート)を選ぶ場合:
- 腎移植認定施設(日本臓器移植ネットワーク登録施設)とのパイプを作る
- 外来透析患者への移植登録の働きかけと、移植手続き支援の記録を残す
- 年間2人という数値は「新規登録者」も含まれるため、登録サポートの体制整備が鍵
注:自施設で透析シャント閉塞等の治療が行えない場合
自院でシャント治療ができない施設は、連携先医療機関との事前の取り決めを書面化することが必須要件です。経過措置はなく、6月1日の算定開始時点で体制が整っている必要があります。
【注意】「連携している気がする」では不十分
「いつもお世話になっている先生に電話すればなんとかなる」という状態は、施設基準上の「連携体制の整備」とは認められません。以下を必ず書面化してください。
- 連携先医療機関との覚書・協定書等の書面が存在するか
- シャントトラブル発生時に速やかに診療情報提供書を発行できるフローがあるか
- 紹介・逆紹介の流れが院内スタッフ間で共有・文書化されているか
【現場の必須アイテム】
厚労省のPDFだけでは解釈に迷う場面が多いのが正直なところです。手元に解説本があるだけで、院長への説明の説得力が格段に上がります。経費申請して揃えてもらいましょう!
CHECK! > 診療点数早見表 2026年度版(医学通信社)
まとめ:まず「届出」と「情報提供体制の整備」を同時に進めよう
今回の「腎代替療法診療体制充実加算」は、正しく理解すれば中小クリニックにとっても十分に算定可能な項目です。ただし、「経過措置があるからすべて後回しでOK」は間違いです。
「(2)アの情報提供」と「(3)シャント連携体制」は経過措置がなく、6月1日から実施が必要です。そこを見落とすと、届出をしても要件不備になりかねません。
- 今すぐ:院長・事務長への報告と届出の準備(届出は5月中に完了)
- 6月1日から:災害対策マニュアル整備(経過措置なし)/患者への腎代替療法説明の記録体制を整備(経過措置なし)/シャント連携の書面化(自院対応施設を除く)
- 2027年5月末まで:情報伝達訓練への参加と記録
- 2028年5月末まで:イ(PD管理・C102年24回以上)またはウ(移植手続き患者年2人以上)の実績構築
「患者さんが将来の選択肢を持ちながら安心して透析を続けられる環境」——それはこの加算の要件をクリアすることと、方向性が一致しています。経営への貢献と患者ケアの向上を両立できる、数少ない加算です。
まずは管轄の地方厚生局のホームページで最新の届出様式を確認し、事務部門と連携して動き出しましょう。


コメント
災害対応に係るマニュアル作成は経過措置ございますか。厚労省の短冊資料からは読み取れませんでした。ご教示ください。
kenryou様
この度は大変貴重なご指摘をいただき、ありがとうございます。
ご提示いただいた厚生労働省の短冊資料をあらためて確認したところ、ご指摘のとおり「ネットワーク訓練」については経過措置の記載がある一方で、「災害対応に係るマニュアル作成」そのものについての経過措置は読み取れない構成となっており、記事中の表現は誤解を招きかねる書き方になっておりました。
現時点では、「マニュアル作成」は原則として算定開始時点までに整備が求められ、「ネットワーク訓練」に限って経過措置が設けられていると解釈するのが妥当と考え、記事本文にもその旨を追記・修正いたしました。
今後、告示や疑義解釈で取り扱いが明確化される可能性もありますので、最新情報を確認しつつ、内容をアップデートしていきたいと思います。この度は丁寧なご指摘を本当にありがとうございました。