著者: 透析療法に20年以上従事する現役の臨床工学技士。北海道在住・小学生の娘を持つ「透析CEパパ」として、現場の知識と日常生活の知恵を発信しています。
⚠️ 【免責事項】 本記事は情報提供を目的としており、診療行為・医学的アドバイスではありません。透析治療・食事制限・薬剤の使用に関する判断は、必ず主治医・管理栄養士・薬剤師の指示に従ってください。
📢 【広告表示】 本記事にはアフィリエイトリンクが含まれます。商品購入時に運営者へ紹介料が入る場合があります。読者の皆様のご負担は一切ありません。
「夏と同じ量しか飲んでいないのに、なぜか冬は体重が増えすぎてしまう」
「透析中に血圧が下がりやすくて怖い」
「乾燥肌でかゆくて夜眠れない」
冬の2〜3月はこうした訴えが透析室で最も多くなる時期です。これは患者さんの努力不足ではありません。冬特有の体の生理的変化が原因です。
この記事では、なぜ冬に管理が難しくなるのかをメカニズムから解説し、日本透析医学会のガイドラインと私自身の現場・家庭での実践をもとに「今日からできる対策」をまとめました。難しい知識がなくても読める内容にしています。まずは5分だけお付き合いください。
- 透析患者が冬に体重が増える理由|不感蒸泄・血圧変動をCEが解説
- 寒さによる血管収縮と血圧変動
- 「汗をかかない冬」に起こる隠れ水分蓄積
- 冬の水分制限・塩分管理のコツ|鍋・汁物でも無理なく続ける方法
- 鍋料理・汁物は「具材」を楽しむ
- 喉の渇きをやわらげる工夫
- 塩分が多い冬の食材リスト
- 透析患者のかゆみ対策と保湿ケア|冬の室内環境の整え方
- なぜ透析患者の肌はかゆくなるのか
- 保湿剤の選び方と塗り方
- パパも実践!湿度管理のすすめ
- 透析中の血圧低下を防ぐ冬の対策|厚着・ヒートショックに注意
- 「厚着」が除水設定のズレを招く
- ヒートショック対策:温度差をなくす
- 【要注意】冬の透析でこんな症状が出たら即スタッフに連絡を
- まとめ:冬の仕組みを知って、ご家族と笑顔で春を迎えよう
透析患者が冬に体重が増える理由|不感蒸泄・血圧変動をCEが解説
冬になると、夏場と同じ生活をしていても透析室でのトラブルが増える傾向にあります。これには体の生理的な反応が大きく関係しています。
寒さによる血管収縮と血圧変動
寒さを感じると、体は熱を逃がさないように血管を収縮させます。ホースの口を指で狭めると水の勢いが増すのと同じ原理で、血管が縮まると血圧は上昇しやすくなります。
一方で透析中は急激な除水による血圧低下も起こりやすく、冬は「透析前は高血圧・透析後は低血圧」という両極端な状態になりやすいのです。
測定タイミング 目標値(収縮期) 透析前(院内) 140 mmHg 未満 家庭血圧(75歳未満) 130 mmHg 未満 家庭血圧(75歳以上) 140 mmHg 未満 冬場は起床直後に毎日血圧を記録し、透析スタッフに見せる習慣をつけましょう。
※あくまで目安であり個人差があります。主治医の指示を優先してください。
「汗をかかない冬」に起こる隠れ水分蓄積
透析患者さんが冬に最も苦労するのが体重管理です。
不感蒸泄(ふかんじょうせつ) とは、発汗以外に皮膚や呼気から自然に失われる水分のことです。常温安静時、成人は1日あたり約900mL(皮膚から約600mL・呼気から約300mL)が不感蒸泄として失われます。 夏場はこれに加えて発汗も加わるため、水分が多く体外へ出ていきます。
ところが冬は発汗がほぼゼロになり、不感蒸泄量も気温の低下に伴って減少するため、「夏と同じ量しか飲んでいないのに、DW(ドライウエイト:体内に余分な水がない理想体重)を超えて体重が増える」 という現象が起こります。これが冬場に除水量(余分な水分を抜く量)が増え、透析後半の血圧低下や足のつりを引き起こす大きな要因です
【図解イメージ:夏と冬の水分バランスの違い】
夏 冬 飲水量 700mL 700mL(同じ) 発汗 あり(多い) ほぼゼロ 不感蒸泄 約900mL以上 約600〜700mL程度に減少 体に残る水分 少ない 多い(=体重増加)
💬 CE的かんたん解説
患者さん先生、夏と同じ量しか水を飲んでないのに、なんで冬はこんなに体重が増えちゃうんだろう?
パパCEそれは『汗』の違いですよ。冬は汗をほとんどかかないので、夏なら自然に蒸発していた1日約900mL分の水分が、そのまま体に残ってしまうんです。夏より意識的に飲水量を調整するか、スタッフと目標を相談してみましょう。
冬の水分制限・塩分管理のコツ|鍋・汁物でも無理なく続ける方法
「水を飲むな」と言われても、乾燥する冬は喉が渇きますし、温かい料理も恋しくなります。ここでは、生活の中でできる工夫をご紹介します。
鍋料理・汁物は「具材」を楽しむ
冬の食卓に欠かせない鍋料理ですが、スープには多くの塩分と水分が含まれています。
- 汁は残す: これだけで数グラムの減塩になります。「もったいない」と感じる方は最初からスープを少なめに作るのがコツです
- 取り皿で調整: ポン酢やタレは直接かけず、小皿に少量入れて「少しつけて食べる」スタイルに
- 雑炊は要注意: スープを全部吸い込むため、体重管理中は量を絞りましょう
喉の渇きをやわらげる工夫
水分そのものを減らすのはストレスが溜まります。口の中を潤す工夫を取り入れましょう。
- 氷を舐める: 小さい氷をゆっくり溶かすことで少量の水で長時間の満足感が得られます
- うがい: 冷水でのうがいだけで、口内の不快感が和らぐことがあります
- ガムを噛む: 唾液の分泌を促し、喉の渇きをやわらげます。キシリトールガムは虫歯予防も兼ねておすすめです
塩分が多い冬の食材リスト
| 食材カテゴリ | 代表例 | 注意点 |
|---|---|---|
| 練り物(おでん) | ちくわ・はんぺん・さつま揚げ | 製造段階で塩分大、食べ過ぎに注意 |
| 漬物 | 白菜漬け・大根漬け | 美味しいが塩分過多になりやすい |
| 加工保存食 | ハム・明太子・数の子 | 少量でも塩分が集中している |
| インスタント | 鍋スープの素・缶詰の汁 | 汁は飲まない・素は半量使用を目安に |
透析患者のかゆみ対策と保湿ケア|冬の室内環境の整え方
透析患者さんの多くが悩む「かゆみ(そう痒感)」。日本透析医学会のガイドラインでも、スキンケアの重要性が繰り返し言及されています。
なぜ透析患者の肌はかゆくなるのか
透析患者さんは汗腺の機能が低下し、皮脂や水分の分泌が減るため、非常に乾燥しやすい肌質になります。乾燥は強烈なかゆみを引き起こし、掻きむしることで皮膚に傷がつくと、そこから細菌が入るリスクもあります。
「かゆみで夜眠れない」 ことはQOL(生活の質)を大きく下げてしまいます。透析中に無意識に体を掻かずに済むだけで、4時間の透析をリラックスして過ごせるようになります。冬場の保湿は治療の一環として捉えましょう。
皮脂膜が水分をキープし、外部刺激から守るバリアが機能している状態
汗腺・皮脂腺の機能が低下。さらに冬の乾燥がバリアを壊す引き金に
水分が蒸発しやすくなり、皮膚の乾燥が進む → 強いかゆみが発生
傷口から細菌が侵入しやすくなり、皮膚炎・感染症に発展するリスクがある
この悪循環を断ち切るのが、冬の保湿ケアです
参考:日本透析医会「透析患者のスキンケア」/日本透析医学会ガイドライン
📋 ガイドラインポイント(日本透析医学会)
血液透析患者への保湿剤の使用は推奨されており、スキンケアが薬物療法と並んでかゆみ対策の柱とされています。
保湿剤の選び方と塗り方
お風呂上がり、体がまだ少し湿っているうちに保湿剤を塗るのがポイントです。できれば入浴後5分以内に塗るのが理想です。
- クリームタイプ: 乾燥がひどいかかと・すね・ひじなど局所に
- ローションタイプ: 背中・お腹など広範囲に素早く塗れる
ヘパリン類似物質配合のOTC(市販の第2類医薬品)について:
薬局やAmazonでは、「皮膚を保湿する」「血行を促進する」という効能・効果が承認された、ヘパリン類似物質0.3%配合の第2類医薬品が販売されています(ヒルマイルド・ビーソフテン・ヘパソフトプラスなど)。
⚠️ 注意事項(必読)
- 医療用のヒルドイドは医師の処方が必要な薬です。市販品(OTC)は成分は同じですが、用途・使用量は添付文書を必ず確認してください
- 皮膚に異常(湿疹・ただれ・感染が疑われる傷など)がある場合は自己判断で使用せず、皮膚科を受診してください
- ご自身の状態に合った製品の選択は、薬剤師または登録販売者にご相談ください
パパも実践!湿度管理のすすめ
我が家には小学生の娘がいますが、子どもの風邪予防と肌の乾燥対策を兼ねて、冬場の湿度は**50〜60%**を保つようにしています。
厚生労働省は室内湿度40〜60%の維持がインフルエンザウイルスの不活化に有効であることを示しており、感染症予防の観点からも湿度管理は冬の基本対策とされています。
加湿器を選ぶ際は、毎日水を入れ替えるため「タンクの口が広く、手が入って丸洗いできるスチーム式またはハイブリッド式」を選ぶのが、忙しい日々で継続するコツです。タンク内部が洗えないと雑菌が繁殖し、かえって健康を害することがあります。
💬 CE的かんたん解説
娘パパ、加湿器のお水いれるの? めんどくさくない?
パパCEお部屋の湿度を保つことは、お医者さんも大切だと言っている感染症予防の基本なんだよ。喉も痛くならないし、パパの肌のかゆみ対策にもなる。大事なお仕事なんだ。
透析中の血圧低下を防ぐ冬の対策|厚着・ヒートショックに注意
透析室の現場でも、冬場は血圧低下のトラブルが増えます。患者さんご自身でできる対策があります。
「厚着」が除水設定のズレを招く
冬は厚手のニットや重ね着で来院される方が多いです。多くの施設では衣服重量を一定値(例:1.0 kg)と仮定して体重から引きますが、実際の服がそれより重い場合、「本来の体重より軽く測定される」 ことになります。
これに気づかず除水設定をすると、体から水を抜きすぎて急激な血圧低下を招く恐れがあります。
対策はシンプルです:
- 毎回できるだけ同じくらいの重さの服で来院する
- 極端に厚着をした日は「今日は服が重いかも」とスタッフに一言伝える
この一言だけで、安全性がぐっと高まります。
💬 CE的かんたん解説
患者さん最近寒いから、下着を2枚重ねてきちゃったわよ。
あたたかくて良いですね!でも、体重計に乗る時は服の重さが変わっちゃうから、必ずスタッフに『今日は厚着だよ』って教えてくださいね。安全に透析できるよう、一緒に調整しますよ。
ヒートショック対策:温度差をなくす
透析患者さんの死因の約3割は心血管系合併症が占めており、急激な血圧変動の影響が健常者より大きいためヒートショックには特に注意が必要です。
入浴中の心肺停止は夏と比べて冬(12〜1月)に約11倍に増加するというデータもあります。
家庭でできる対策:
脱衣所に置くヒーターは、人感センサー付きのセラミックファンヒーターが便利です。人が入ると自動でオンになるため、うっかり消し忘れがなく、転倒リスクの低い薄型タイプを選ぶと安心です。
※着替えが「億劫」から「快適」に変わると、毎日の入浴習慣が変わります。
【要注意】冬の透析でこんな症状が出たら即スタッフに連絡を
冬場の体調変化には、命に関わるサインが隠れていることがあります。以下の症状が出たら、我慢せずに主治医や透析スタッフに相談してください。
| 症状 | 考えられる状態 | 対応 |
|---|---|---|
| 急激な息切れ・横になると苦しい | 肺に水が溜まって呼吸が苦しくなる状態(肺水腫)や心不全の可能性 | 即日連絡・受診 |
| シャント側の腕が冷たい・音が弱い | 寒さや血圧低下でシャント(透析用に作った血管)の血流が低下している可能性 | すぐ透析室に連絡 |
| 胸の痛み・圧迫感 | 寒冷刺激による狭心症などの可能性 | 即日受診 |
| 透析後も頭痛・吐き気が続く | 不均衡症候群、または血圧異常 | スタッフへ報告 |
⚠️ シャントのセルフチェックは、事前にスタッフから指導を受けた方法に従ってください。 自己判断での対処は危険なことがあります。
まとめ:冬の仕組みを知って、ご家族と笑顔で春を迎えよう
冬の透析管理は確かに大変ですが、仕組みを知って対策をすれば、トラブルを未然に防げます。
- ✅ 水分管理: 汗をかかない分、夏より意識して飲水量を調整する
- ✅ 塩分管理: 鍋・汁物の「汁」を残し、加工食品の塩分に気をつける
- ✅ 保湿・保温: 乾燥から肌を守り、急激な温度変化(ヒートショック)を避ける
- ✅ スタッフとの連携: 厚着をした日・体調不良時は透析前に必ず伝える
- ✅ 血圧記録: 毎朝同じ時間に測定し、手帳やスマホにメモして持参する
私たち臨床工学技士も、患者さんが安全に透析を受けられるよう、冬場は特に細心の注意を払って機器を調整しています。不安なことがあれば、透析室でいつでも声をかけてください。
適切な管理で厳しい冬を乗り切り、ご家族と温かく楽しい時間を過ごしましょう。
📚 参考・引用資料
- 日本透析医学会「ガイドライン・提言」 https://www.jsdt.or.jp/dialysis/2094.html
- 日本透析医学会誌「透析患者における血圧管理」
- 日本透析医会「透析患者のスキンケア」
- 日本救急医学会「不感蒸泄」用語解説
- 腎臓病情報センター「冬の入浴でのヒートショック対策」 https://www.jinlab.jp/support/basic_22_heatshock.html
- 厚生労働省「換気の悪い密閉空間改善のための換気指針」
- 公益社団法人 日本臨床工学技士会 https://www.ja-ces.or.jp/






コメント